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【連載】四季のたしなみ、暮らしの知恵(八)都内のパワースポット!「明治神宮」の杜(もり)
2015.10.31
東京・原宿駅のホームに降り立つと、若者たちの黄色い歓声とは別に、森の中に佇んでいるかのような、ふ~っと爽やかな涼風が吹き抜けるのを、感じたことはありますか。
それは都会のど真ん中に居ながらにして、受けとることのできる贅沢な森林浴の感覚。竹下通りの逆方向にあふれる森の緑は、“明治神宮の杜”からの季節の便りなのです。
いくつかある参道をそぞろ歩くと、まるで太古の昔からそうであるかのように錯覚してしまうほどに広がる、深い森。
ですが、これらは多くの人たちの手を掛けられて造成し、植栽してできあがった人工林が出発点なのです。
ですが、これらは多くの人たちの手を掛けられて造成し、植栽してできあがった人工林が出発点なのです。
100年前の先人たちの知恵で生まれた人工林
明治天皇崩御の知らせを享けて、国民は追慕の気持ちが表わせる場所が欲しいと考えました。木々の大半が全国からの献木(約10万本の寄付)でできあがった明治神宮の杜は、人々の想いを集めた場処なのです。造営当初の代々木は、疎らに林はあったものの、大半が野原というべき畑地であり、神社境内林を一から作るにはタイヘンな努力が必要でした。
大正4年10月、地鎮祭が執り行われて造成が始められ、今年でちょうど100年が経ちました。
放任されたまま、手つかずの大自然ばかりが正解だとは言えません。天然自然林を目指した人工林、人が暮らす都市と自然との共生、なんらかのかたちで互いが歩み寄り、その恩恵を分かち合えるような図式が相応しい都市緑化、先人から見習うべき、ひとつの理想郷がここに在ります。
趣きの違う3つの参道
東京23区中心部にも緑多き場所は意外と確保されていて、特に明治神宮の杜の近くには、隣接した代々木公園、山手線内側には新宿御苑、神宮外苑など癒しの空間がひろがっています。約70万ヘクタールといわれる明治神宮内苑は、皇居は別にしても、23区内で葛西臨海公園、水元公園に次ぐ広さを有した緑地空間です。
境内には、3つの参道から入ることができます。参宮橋駅からすぐの入り口、西参道からは武道場や宝物殿といった建物を控え、その前面には広い芝生がひろがっています。大都会にありながらスカッと抜けた広さで、もっとも青空を感じさせるに相応しい場所で、寝転んでリラックスできる空間でもあります。
一方、代々木駅や北参道駅から入る、北参道はもっとも地味なコースですが、いつも静かに参詣者を迎えてくれます。このエリアにはイチョウやカエデなど紅葉する木々も多く、晩秋には歩くのが楽しみとなります。
最後に南参道、原宿駅や明治神宮前駅から神宮橋を渡ってすぐの入り口、こちらが場所柄、表参道や渋谷方面からのアクセスもよく、もっともメジャーな正面玄関口ともいうべき景観の場所となります。
大きな第一鳥居は“聖と俗”、あるいは“静と動”との接点/結界。その手前にある神宮橋のあたりにはイマドキの奇抜なファッションで身をまとった少女たち、カワイイを具現化させた申し子たちが集まる聖地です。同時に、トラディショナルな日本イメージと2次元アニメのポップな日本イメージとを重ね合わせ、イマのニッポンを目撃したい外国人観光客の定点観測スポットとなっています。
3方角から集まった参道は、やがて御社殿とよばれる本殿へと向かいます。正面の大鳥居をくぐれば、そこからが正参道。御社殿は中心部にあって、その背後の森は東京ドーム50個以上とされる広い苑内でも、もっとも神聖なる場、清い気が充溢し神秘深いエリアのように思えます。
ヒグラシが鳴く御苑
苑内の清正井
夏場、ひんやりする場所があります。
そこは御苑とよばれ、池など配された庭園で花菖蒲園を管理するための囲われたエリアで、その中心には、今でもきれいな水が流れる清正井という湧水地があり、サワガニが戯れています。
そこは御苑とよばれ、池など配された庭園で花菖蒲園を管理するための囲われたエリアで、その中心には、今でもきれいな水が流れる清正井という湧水地があり、サワガニが戯れています。
広い苑内のこの場所だけには、もとから杉林が僅かに残されており、杉の木立が好きなヒグラシが生息。23区内では珍しく夏の夕暮れ時には、カナカナカナと輪唱します。
樹々が作り出す清涼感と敬虔なきもち
明治神宮の森をかたちづくっている主な種類は、クスノキ、カシ類、スダジイなど常緑広葉樹です。神宮の森でリフレッシュさせてくれるパワーの源には、こうしたクスノキなどの木々が発散する香り物質などによる効果があります。
造成当初、植栽選定にあたっては、総理大臣であった大隈重信より「神社の境内として相応しい荘厳なる杉林にすべきだ、藪はよろしくない」との進言もあったようです。
ですが植栽計画を運用した学者たちの英断により、土地に適さない杉並木は避けて、季候風土にあった植物で構成されました。
50年後、100年後を見据えた長期的展望、壮大なるビジョンのもと、人工林にして太古の森のようになるよう考え出されたのです。
ですが植栽計画を運用した学者たちの英断により、土地に適さない杉並木は避けて、季候風土にあった植物で構成されました。
50年後、100年後を見据えた長期的展望、壮大なるビジョンのもと、人工林にして太古の森のようになるよう考え出されたのです。
明治神宮は、目まぐるしく動く東京に広がる、静謐な祭祀空間。鳥居をくぐれば、自然が育み、人の手によって維持・管理された景観が広がります。明治神宮の森は人と共生し、憩いの場としての役割を今も担っているのです。
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桃猫
東京生まれ。茶人として各地に赴き、日々、中国茶の茶話会を開催。とうきょうの街歩きをフィールドワークとして銭湯、寺社、名跡などを探索するうちに、グルメや趣味の数々をつづったブログ=桃猫温泉三昧を継続し、今年10周年を迎えた。その趣味は多岐に渉り、銭湯と温泉巡りで960湯達成、鉱物マニア、古書蒐集、無類の麺喰いでもある。スピリチュアルな方面にも詳しい。