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コラム
【連載】四季のたしなみ、暮らしの知恵(二)暑い夏だからこその、ぬるい温泉のススメ
2015.07.25
ぬる湯, 夏, 季節のたしなみ、暮らしの知恵, 温泉
さぁ、梅雨も明けて夏の観光シーズン、海や山へ、行ってみたい選択肢は広がります。しかし、このうだるような暑さの中、わざわざ温泉目的となると「どこへ?」と、なりがちです。
そんなあなたに是非おススメなのは、夏だからこその、ぬる湯のススメ。それも、意外と近場にあったりもする銭湯の水風呂や、低い温度の源泉を謳った温泉地だったりします。
そんなあなたに是非おススメなのは、夏だからこその、ぬる湯のススメ。それも、意外と近場にあったりもする銭湯の水風呂や、低い温度の源泉を謳った温泉地だったりします。
日本全国津々浦々、実にたくさんの温泉があります。もちろん、有名な温泉地の多くが火山大国ニッポンのなかで、その恩恵を享けての火山性温泉、だからいざ湯舟に足を踏み入れても、激アツで十分に寛げなかった!なんてことありませんでしたか。
ゆっくり浸かるためには適温、そう考えるひとも多いことでしょう。ここはひとつ体温に近い温度の温泉に浸かってみる、不感温浴のひとときを手に入れましょう。
ゆっくり浸かるためには適温、そう考えるひとも多いことでしょう。ここはひとつ体温に近い温度の温泉に浸かってみる、不感温浴のひとときを手に入れましょう。
からだが休まる不感温度とは
温泉の分類では源泉の湧出口において泉温が42℃以上を高温泉と定義付け、一般的には、34~42℃のあいだを温泉と認識することが多いのです。実際には、火山性とは別種の温泉も多く存在し、泉温が25℃以上であるか、または、それ以下であっても、いくつかの特定成分が、ある一定の規定値を満たしているケースで温泉と名乗ることが可能となっています。
温泉でも、源泉そのまま、ぬるい温度を掛け流しにすることで、ウリにして効能を謳っている、そういう温泉も案外と多く存在しています。
温泉でも、源泉そのまま、ぬるい温度を掛け流しにすることで、ウリにして効能を謳っている、そういう温泉も案外と多く存在しています。
不感温度って、ご存じでしょうか?
ひとがお風呂に浸かって、冷たくも熱くもなく、原理的にはストレスフリーな状態に放つ、つまり体温と近い36度前後の温度のことで、そのような得難い温度の温泉は、長い時間浸かっても、身体にストレスを感じさせずに特有の効果があるとされ、隠れたもうひとつの湯治の姿でもあるのです。
ひとがお風呂に浸かって、冷たくも熱くもなく、原理的にはストレスフリーな状態に放つ、つまり体温と近い36度前後の温度のことで、そのような得難い温度の温泉は、長い時間浸かっても、身体にストレスを感じさせずに特有の効果があるとされ、隠れたもうひとつの湯治の姿でもあるのです。
長野県の渋御殿湯(しぶごてんゆ)
一般的に、ひとは交感神経と副交感神経を無意識に調節して、リラックスしたり、緊張したりしているのですが、熱いお湯に浸かるとシャキッと目覚めさせ、反対に、ぬるいお湯なら副交感神経がはたらいて眠くなるぐらいに弛緩するというような具合です。
とくに精神的な疲れ、雑踏から逃れて休息したいという和みタイム、自分が発した黄色信号から、心を休め、からだも無理なくほぐすには、ぬるめの温度のお湯が最適だと思うのです。
とくに精神的な疲れ、雑踏から逃れて休息したいという和みタイム、自分が発した黄色信号から、心を休め、からだも無理なくほぐすには、ぬるめの温度のお湯が最適だと思うのです。
夏の温泉巡りにうってつけな名湯たち
そこでまずは試しに、夏こそチャレンジ! 冷たい水風呂とお湯との交互温浴(交代浴)も、ぬる湯とは違った効果が期待できますが、心臓に負担がかかるため、やはり冬季などは避けた方が賢明なのです。
けれど、からだを徐々に馴らしてトライし始めるには、キッカケづくりとして気温が高くなった夏ごろに、冷水浴や、ぬる湯チャレンジが最適です。
けれど、からだを徐々に馴らしてトライし始めるには、キッカケづくりとして気温が高くなった夏ごろに、冷水浴や、ぬる湯チャレンジが最適です。
一方、温泉として効能のある、ぬる湯の温泉は、全国にほぼ分布しているものです。関東から比較的近くに多くあるのは、山梨県には代表的な下部温泉、岩下温泉、山口温泉、長野県には渋御殿湯がありますし、福島県ですとネーミングもそのままで、微温湯温泉(ぬるゆ)という有名な温泉宿があります。
山梨県の下部温泉
あつ湯指向に対する、ぬる湯愛好。それをはじめて体感できたのは、山梨・下部温泉に浸かったときでした。その湯温は、30℃ぐらいしかなく、夏場でも少し冷たいかなという温度で、加熱された浴槽との交互浴をしました。驚くことに、都内へ戻ってきて数日は、からだが芯から温まって快調でいること、つまりは温泉効果を実感していました。
無理して熱いお湯に、暑い夏に入るという選択肢のほかに、夏場は、ぬる湯を求めて旅する計画をはじめたのはそんな理由からでした。
無理して熱いお湯に、暑い夏に入るという選択肢のほかに、夏場は、ぬる湯を求めて旅する計画をはじめたのはそんな理由からでした。
新潟県の貝掛温泉
新潟県の貝掛温泉という場処は、江戸時代から湯治宿が営まれていて、文献にも、その当時から、ぬるいお湯との記述があるそうなのです。自分も、ゴールデンウィーク中に伺った際には、すっかりウトウトしてしまい、1時間近く、肌に細かな泡付のある、ぬるいお湯のなかで夢見心地でした。
ぬる湯の温泉には、そうした、“泡付き”という現象がみられます。家庭の入浴時に、市販されている炭酸入りの入浴剤を使用したことがあるでしょう、その自然バージョンが、全部とは言えませんが、大方のぬるい温泉に浸かることで得られる特典のひとつです。
源泉の種類によって、はじまりは二酸化炭素が多く含まれていますが、地上に湧出する際に抜けてしまう、あるいは高温であるほど抜ける割合は高まります。炭酸泉としての効能を謳うまでに泡付きを保持できるのは、このできるだけ低い温度で湧出した源泉を、加熱することなく、そのままダイレクトに体感することでしか得られない贅沢なのです。
ぬる湯の温泉で、泡付きの恩恵に浸れる愉しみは、体感したものにしか感じられないものです。血液の循環を良くすることで新陳代謝を促進して、肌も汚れが無理なく取れてすべすべになりますし、身体に負担が無いので、血圧を下げたりする効果も高いのです。やはり総合的には温浴効果も高まり、人工炭酸泉や入浴剤によった効果より持続力が全く違ってきます。
それともうひとつ忘れてならないのが、ぬる湯の特権として、美肌効果も期待できる泉質で、アルカリ性単純温泉というのがあります。これも泉温として低く湧出する源泉が多い事実が挙げられます。肌合いもよく、少々ぬるっとして肌がツルすべになること請け合いです。
ひとたび療養といっても、原因は単純ではないはずでしょう。転地療養と言うことばもあって、日頃の疲れを、別天地である大自然のふところに抱かれて快癒するケースもあれば、何ものにも邪魔されず、ただ、流れ来るお湯の“1/Fゆらぎ”で癒されることもあるでしょう。
ぬるい温泉の魅力……夏だからこそ無理せずに楽しめる、自然からもたらされた、やさしげな恩恵だとしたら、その自然のまま身を任せてみませんか。
(完)
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桃猫
東京生まれ。茶人として各地に赴き、日々、中国茶の茶話会を開催。とうきょうの街歩きをフィールドワークとして銭湯、寺社、名跡などを探索するうちに、グルメや趣味の数々をつづったブログ=桃猫温泉三昧を継続し、今年10周年を迎えた。その趣味は多岐に渉り、銭湯と温泉巡りで960湯達成、鉱物マニア、古書蒐集、無類の麺喰いでもある。スピリチュアルな方面にも詳しい。