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現代人はヒールを履きこなせない。「日本身体文化研究所」で、からだに生きる文化を探る
2015.07. 2
日々の暮らしのなかで、私たちは一体どのくらい自分自身の姿勢や振る舞いに意識を向けられているでしょうか。
お気に入りの靴や服はあるけれど、それらに無理やり合わせようと足をねじ込んだり、ウエストを締め上げたり……「いつか痩せるから」とか「この服がかわいいから」という理由で、自分のからだに馴染まないものを身にまとっているなんてことはありませんか。
けれど、本質的に自分らしく在れる美を手に入れるには、まずは自分のからだを知ることが大切です。
姿勢を意識することで育まれる女性の本来の美について、長年研究されているのは、日本身体文化研究所を主宰する矢田部英正さん。大学の講師を務める傍ら、身体技法や姿勢についての著書を多数手がけられています。
今、からだが覚えている日本文化と身の回りの環境にズレが起きている
矢田部英正さん
矢田部先生が主宰する「日本身体文化研究所」とは、日本が歴史をかけて培ってきた文化的背景による仕草、例えばお辞儀や正座、あぐらをかいた座り方にどういった意味があるのか、歴史と構造を研究し、自然と調和するからだの在り方を探る研究所です。
身体技法と物質文化、と言われても暮らしに馴染みのない言葉ですから、あまりピンときません。
では、ふだん履いている靴を例にとって考えてみましょう。


かつて下駄やわらじを履いて暮らしていた日本人ですが、戦後からハイヒールを履く女性が増えていきました。和装によって培われた足の運び方のまま、ハイヒールが生活に入ってきたため、つま先からすり足のように進む歩き方が抜けきらず、未だにヒールを履いて歩く際は多くの日本人の膝が曲がったままです。
こうした、無意識のうちにからだが覚えている日本文化と、身の回りで使うモノや環境の変化に、微妙な齟齬(そご)が起きていると、矢田部さんは話します。
「姿勢」に着目するようになった転機
「日本身体文化研究所」を立ち上げた、矢田部さんご自身は、大学時代までは体操選手をされていたそうです。
過酷なトレーニングを何年も続けていくうちに、関節障害や肉体の痛みは日常的なものになり、競技にのめり込んでいくと同時に、筋肉をパワーの源とする西洋的なトレーニング理論や、身体を蝕んでいく競技形態そのものに疑問を持つようになったのだそう。
そんな時、ひとりの陶芸家・櫻田裕一さんの一言によって、衝撃を受けます。
「まっすぐ立てない人間に、まっすぐな逆立ちなどできるはずがない。」
姿勢の特徴は、その人の運動の癖や習慣的な歪みをありのままに映し出している。こうした基本への認識は、「自己本来の自然がどこにあるのか」という基盤に着地するための もっとも重要な転機となった。以来、競争力の向上と、怪我や故障の激減していったことは、自他共に目を見張るものがあった。
この経験から、身体運動の物理的な合理性と、健康面での生理的自然性、そして身体感覚の美的な覚醒とが、ひとつの「基本姿勢」へと収斂させてゆくのを、はっきり見定めることができた気がした。—— 『たたずまいの美学 —日本人の身体技法』あとがきより引用
以降、競技選手から「身体技法」を研究する立場に一転。こういった経験があり、日本人のからだと、その文化的背景への追求心が高まっていきました。
自然と背筋が伸びる椅子
矢田部さんは、座るだけで自然と背筋が伸びるオリジナルの椅子の開発も行っています。
パッと見ただけでは、特にほかの椅子と変わらない、シンプルな形に見えます。
ですが、背もたれまでぴったり腰を沿わせることによって、自然と背筋がまっすぐなるように緻密に設計された椅子なのです。この椅子に座ると姿勢が整い、腎を刺激してくれます。とりわけこの腎というのは、内臓の中でも気を生み出す役割を担っており、血液を循環させて皮膚からの排泄を促す役割があります。腎のはたらきが高まると、老廃物が体内から出やすくなり、すはだも美しくなるのです。
暮らしのなかで、姿勢に関してどういったことに気をつければいいのか、「美しいたたずまい」とは誰でも習得できるものなのか、矢田部さんに伺いました。たたずまいの美しさについては、次回ご紹介いたします。
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中條美咲
昭和64年1月3日 長野県生まれ。 2014年 暮らしの中で出会ったものや人、そこから感じたことを文章で伝えていきたいと思い 「紡ぎ、継ぐ」というブログを始める。” 見えないものをみつめてみよう。” ということをテーマに、書くことを通じて多くの出会いに触れながら、感じる力を育てていきたい。 現在は「灯台もと暮らし」と「PARISmag」にてライターとして活動中。
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