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姿勢が変わるとすはだが変わる。からだの内側を見つめて引き出す美の源泉

2015.07. 6

すはだ, 姿勢, 日本, 瞑想, 骨格

「自分たちの文化の根っこを自覚して、掘り起こして守らないと、壊れてしまうものはとても多い。なんとなく時代に合わせることはできたとしても、からだの変化に敏感な女性たちが、姿勢を通して自然を取り戻していくのがとても大事なんです――。

そう語るのは、日本身体文化研究所主宰の、矢田部英正さん。
 
女性たちが元から持ち合わせている”美しさ”に気づき、からだの自然を取り戻すことによって、わたしたちの未来はどう変化していくのでしょうか。
 
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「からだのメソッド 立ち居振舞いの技術」(ちくま文庫) 装丁は原研哉さんのデザイン
 
—— 正しい姿勢を保とうと、意識はしていても続けるのは難しいと思ってしまいます。
 
矢田部英正(以下、矢田部) 正しい姿勢の基準は、民族や時代によっても様々です。バレエや武術、陸上競技など、それぞれの目的に応じて骨格の配置が適切かどうかが重要です。
 
多様な姿勢がある中でも、広く共通している基準は、「背骨の上に頭をまっすぐに乗せる」こと。頭の位置を正しく配置すると、肩や胸が緊張することなく、楽に姿勢を保てるようになるんですね。長時間、楽にキープできるということは姿勢を意識していく上でとても大事です。
 
 
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身体の自然に合わせてデザインされた椅子
 
—— 美しいたたずまいというのは、どうやってを身につけることができるのでしょうか。
 
矢田部 まずはていねいに、自分のからだを扱うことから心がけるといいと思います。歩く、坐る、食事をする、人に物を渡す、など、そうした日の動作を少しだけていねいに行ってみる。すると、それがそのまま「態度」や「生き方」として現れてきます。つまり所作の美しさというのは、その人の内面と一体になっていて、居ずまいや佇まいとなってにじみ出るのです。
 
たとえば、おもてなしの精神や気遣いは目に見えないものですが、それは所作や立ち居振る舞いの印象からも、はっきり感じ取れるものです。とくに日本人の美的感覚は、そうした目に見えない感覚を大事に育みながら、洗練されてきた歴史があります。
 
文化的な根っこを自覚して、自分たちの文化を掘り起こして守ってかないと、壊れてしまうものはとても多いのです。なんとなく時流に合わせて生きてはいるものの、どうもからだと心の調子が良くないなぁと思っても、解決法を見つけられません。こうした時代的な身心の不調和を敏感に察知するのは、やはり女性なのではないかなと思いますね。

自分の中に眠っている、美しさの源泉への気づき

—— 女性たちがそうしたことに気づいて姿勢から変わっていくことで、男性たちも変わっていくのでしょうか?
 
矢田部 女性が美しいと、男性も子どもたちも幸せになるんですよ(笑)。自然を歪めて支配する文化は、まず初めに女性の健康を損ねてしまいます。
 
これからは暮らしの中で、上手に自然を活かし調和していくことが求められます。からだも自分の自然な状態が持つ特性を最大限に活かせば、必ずその人らしい美しさが湧いてくるんですよ。
 
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── その特性を生かした美しさのひとつが、姿勢なのですね。
 
矢田部 そうです。けれど、自分自身でその自然を歪めてしまう場合もあります。
 
── 何が、それにあたるのでしょうか?
 
矢田部 頭です。頭のなかの固定観念がからだを支配して硬直させていく。
 
東洋的な発想は、頭でからだをコントロールするのではなく、まずからだの内部を深く観察する「瞑想」の訓練が基礎になっています。呼吸や血液、内臓の動きを感じ取れるようになると、おのずと月の満ち欠けや潮の満ち引きといった、天体の引力とも呼応した「自然」を感じ取れるようになります。

京都の中庭
 
矢田部 日本文化の多くは、古来より座って、からだと心を整える瞑想法を大事にしていて、自然と調和した感覚に基づいて生活文化の全体を組み立ててきました。それは山奥にこもって修行するばかりでなく、たとえば京の限られた土地のなかでも、寺院や茶室の中庭のような小さな空間で、宇宙全体を観想するような方法を生み出しました。ですから、京都の老舗旅館の小さな坪庭でも、ファンタジーが再現できてしまうわけです。
 
── 京都の料亭の中庭がファンタジーなのですか?
 
矢田部 もともと日本の作庭の技は、極楽浄土を再現するためにデザインされています。なぜそこに灯篭があり、植木があるのかというのも、自然との調和を追求した結果の配置ですから、ある種現実世界にファンタジーが出現しているようなものですね。
 
命あるものを生み出す女性も、まさに自然の象徴で、かつては救いや崇拝の対象にもなっていました。経済的な優劣で人を区別するような限られた土俵ではなく、もっと広い意味で女性性を発揮できる社会になっていけば、男性も女性も幸せになると思います。
 
そのためにはまず、身体の内面を見つめていくこと、自分自身でからだの調子を感じ取って、自分なりの美しい「たたずまい」を身につけていただければと思います。

お話をうかがったひと

矢田部 英正(やたべ ひでまさ)
 
1967年東京生まれ。武蔵野身体研究所主宰。筑波大学大学院修了 体育学修士。 学生時代は体操競技を専門とし、全日本選手権等に出場。選手時代の姿勢訓練が嵩じて日本の伝統的な身体技法を研究する。国際日本文化研究センター研究員を経て、文化女子大学大学院にて和装と身体のかかわりを研究し、博士号取得(被服環境学)。姿勢研究の一環として1999年より椅子の開発に着手。デザインレーベル「コルプス」を発足する。身体を軸とした「物づくり研究」は、椅子、服飾、建築と広い守備範囲をもつ。武蔵野美術大学、武蔵大学 非常勤講師。
 
 
 
中條美咲

中條美咲

昭和64年1月3日 長野県生まれ。 2014年 暮らしの中で出会ったものや人、そこから感じたことを文章で伝えていきたいと思い 「紡ぎ、継ぐ」というブログを始める。” 見えないものをみつめてみよう。” ということをテーマに、書くことを通じて多くの出会いに触れながら、感じる力を育てていきたい。 現在は「灯台もと暮らし」と「PARISmag」にてライターとして活動中。

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