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食べることは生きること。東京「signifiant signifié」(シニフィアン・シニフィエ)のパン職人・志賀勝栄さんが作る、命と健康を守るパン
2016.05.27
食べることは、生きること。そんな当たり前のことを、日々の食生活ではどうしても忘れがちになってしまいます。
けれど、東京都世田谷区にあるパン屋さん「signifiant signifié(シニフィアン・シニフィエ)」(以下、シニフィアン・シニフィエ)には、食べるだけで、その当たり前を思い出させてくれるパンばかり。粉や雑穀だけでなく、乳酸菌や酵母も徹底してこだわり抜かれたパンは、いまや世田谷区を超えて日本各地のファンを魅了しています。
シニフィアン・シニフィエを開店したパン職人・志賀勝栄シェフは、常にパン業界の最前線を走り続けてきました。低温長時間発酵の第一人者として、パン好きなら知らない人はいないと言われる志賀さんに、パンにかける情熱と、パンがもたらす暮らしの豊かさについて、お話を伺いました。
健康をサポートするパン屋さんを目指して。“発酵食品”としてのパンを追求
そもそも、東京は指折りのパン屋さん激戦区。さらに都内では、からだを気遣う良質な食べ物も、パンのみならずいろいろなものが手に入ります。その中でも、シニフィアン・シニフィエが、どうしてパン好きや食への意識が高い人々に愛されるのか。その秘密は、「医食同源」と考える、志賀シェフの哲学にあるようです。
志賀勝栄シェフ
「僕にとって、元気に過ごせて、命を全うできる生き方が一番の理想です。病気で苦しんだり、入院したりして無理に命をつなぎ止めるのではなく、健康的に歳を重ねたい。日々の食生活に気をつけることで、健康的なからだを作る“医食同源”という考え方が、僕やお店の主となるコンセプトです。そういった、すこやかな暮らしをサポートできるパンを作りたいと思ったんです」
シニフィアン・シニフィエが開店した2006年から、志賀シェフのこの想いは変わっていません。そのため、嗜好品ではなく、すこやかなからだを作る“発酵食品としてのパン”を追求しています。
糖質を抑えたパン「コンプレ シャルム」(10個入)には高野豆腐が使われており、口に含むとほろほろとした食感
アマニを使った「キャトル ヴァン」はαリノレン酸や食物繊維たっぷり。ゴマに似た風味が広がる
たとえば、小麦のふすまと胚芽を特別な方法で乳酸発酵させたものを使って、通常の全粒粉パンの倍以上の食物繊維やミネラルを含んだパンもあります。また、雑穀やチアシードなどを使った新商品も積極的に開発。2切れで1日分のαリノレン酸を摂取できるアマニ入りのパンや、高野豆腐を使った低糖質パンなども並んでいます。
ゆっくりと食卓で過ごす時間を楽しんでほしい
シニフィアン・シニフィエに並ぶパンは、毎日買いに来たいお手頃価格なものから、ここぞという時にいただきたいちょっと値の張るものまで、バリエーション豊か。けれど、どれも素材を厳選することと健康への視点は忘れていません。
さらに、健康的な暮らしのほかにも、食卓での時間をパンで彩りたい、と志賀シェフは話します。
「久しぶりに会った友人と、ワインを飲みながらゆっくりと時が流れていく……そんなひと時のお供に、僕らが作ったパンがあるといいな、というイメージです。空腹を満たすために手軽にパッと食べられるパンなどではなく、僕らのパンが担うのは、時の流れを彩ること。健康志向なのはもちろん、食べることそのものも、楽しんでいただきたいですからね」
シニフィアン・シニフィエの公式サイトでは、お店のパンと料理の組み合わせも提案・公開しています。
ピリッと胡椒のきいた「ピカン」には、生の無花果(いちじく)と塩味の強いフェタチーズを使ったサラダに合わせて。赤ワインにぴったりのメニューです。(シニフィアン・シニフィエ公式サイト「マリアージュ」ページより)
フランス産小麦100%配合のスタンダードなバゲット。小麦自体の旨みをあまり前面に出さずに、他の食材との調和を考えて作っていますので、どんなお料理にも合いますが、バレンタイン前なのでカカオの香りとスパイシーな味わいが特徴の豚肉のソテーを合わせました。バゲット ドゥ ジュールは、カリッとするまで温めてソースと一緒にいただくと、豊かな味わいがお楽しみいただけます。(シニフィアン・シニフィエ公式サイト「マリアージュ」ページより
シニフィアン・シニフィエのパンがもたらす、暮らしへの彩りは、十人十色。志賀シェフをはじめとするスタッフの味や素材へのこだわりは、からだへの配慮だけでなく、いつもの食卓をパッと華やげてくれる力があるようです。
命は有限。だからこそ“食べる”ことにこだわりたい
健康的なからだと暮らしをサポートすること。そしてその時間を彩ること。シニフィアン・シニフィエが大切にしているパン作りは、“生きる”ことへの実直な眼差しによって、支えられていることが分かります。
「僕たちは、誰しもが有限の命で確実に老いていきます。人の細胞は、食べ物でできていて、脳と心臓以外のすべての細胞が毎日入れ替わります。今、僕を支えているこの骨や肉を作る細胞は、2年後には消えてしまう。人の完成は、死によってもたらされるのではないかと、僕は思っているんですよ」
志賀シェフが見つめるのは、その日限りの食事ではありません。“食べる”ことは“生きる”こと。パン作りにおける広い視野は、命や生きる“時間”に常に向けられています。
「同じ発酵でも、ワインの醸造家の方々は、先代が苗を植えたら彼らの子どもたちが生まれるまで、一番いい状態まで醸された味を知ることはできません。そしてそのワインは、先代の孫の時代くらいに、やっと評価される。それくらい発酵に時間がかかります。パンも発酵という行為自体、時間がかかり、“発酵=ひたすら待つ”ことでもあるんです。けれど、時の流れを自分のからだでも感じることは、とても大事だと思います」
パンを通して生きることを見つめ続ける志賀シェフですが、飽くなき探究心から、まだまだやりたいことが尽きないと話します。
「これからもずっとパンを焼きたいから、毎日走っています。この一年で、小学生の頃の体力を取り戻したいです。脳細胞よりも、まず筋肉を鍛えなくちゃと。可能ならば、120歳までパン作りをしたいですね」
少年のように、キラキラと語る志賀シェフ。深夜に仕込みをし、午前中にひと仕事を終えるため、決して生易しい現場ではありません。それでも、志賀シェフは人々の健康を、楽しい食卓を、生きることを想いながら、今日もシニフィアン・シニフィエに、焼きたてのパンを並べます。
お話をうかがった人
志賀 勝栄 (しが かつえい)
1955年生まれ。新潟出身。センチュリーベーカリー、アートコーヒーに勤めた後、代官山「カフェ・アルトファゴス」シェフ・ブーランジェに就任、「パティスリーペルティエ」のシェフ・ブーランジェ(「ユーハイム・ディー・マイスター丸ビル店」のシェフベッカーと「フォートナム&メイソン三越本店」のシェフブーランジェを兼任)の時代を経て、2006年に世田谷区下馬に「signifiant signifié(シニフィアン・シニフィエ)」をオープン。今年で10周年。 著書に『酵母から考えるパンづくり』(柴田書店) 『パンの世界 基本から最前線まで』(講談社選書メチエ)『シニフィアン シニフィエのスイーツブレッド』(飛鳥新社)DVD『シニフィアンシニフィエのパンづくり~ミキシングから焼成までの全工程』などがある。
このお店のこと
signifiant signifié 世田谷本店
- 住所:東京都世田谷区下馬2-43-11 COMS SHIMOUMA 1F
- 電話番号:03-3422-0030
- 営業時間:11:00~18:00
- 定休日:不定休
- 最寄駅:東急田園都市線「池尻大橋駅」または「三軒茶屋駅」から徒歩15分
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Amika
シンガーソングライター、CM音楽の歌作詞作曲、ライター、パン・料理研究家。出産を機に子供と同じ卵乳にアレルギーがあるとわかり、日常から卵乳製品を使わない料理やマクロビオティックを実践。中医学(薬膳)も学ぶほぼベジタリアン。作詞作曲のかたわら、学び続けてきた自然酵母のパンと焼き菓子、妊娠出産授乳期や養生食、狭心症や糖尿病のための食事、菜食と肉食ごはんの両立、アレルギー対応食の講座を担当。
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