福島県の昭和村で行われている「からむし」作りを、ご存知ですか。古来から、日本の繊維業の材料として使われてきた上質な素材となる植物を「からむし」といいます。
この植物の伝統的な栽培技術は、高級な繊維を何百年も前から生み出してきた、日本が誇る手仕事のひとつです。
そんな昭和村でのからむし作りですが、現代では、どんな風に行われているのでしょうか。
5月:からむし焼き
昭和村のからむし作りは、毎年5月中旬頃に、新芽が芽吹き始めたからむし畑に火を入れる「からむし焼き」から始まります。
からむしは多年草のため、はじめに芽生えた新芽を焼くことによって、病害虫の発生を抑えて、発芽を揃えます。こうして、二度目に生える芽を育てることで、栄養分に富んだ質の良い繊維ができるのです。
梅雨には、たっぷりの水分を補い、夏場の太陽の光に照らされて、2mほどの萌黄色の茎と葉に生長していきます。
7月下旬〜8月:からむし刈り・皮剥ぎ・苧引き
からむし刈り〜苧(お)引きは、夏の土用からお盆のころまで行われます。2mほどに伸びた茎は、1本1本、鎌を使って手作業で刈り取られます。
刈り取りながら、枝の分かれた「親苧(おやそ)」、まっすぐ伸びた「影苧(かげそ)」に分類していきます。

大芦地区で一番美しいからむしを作る、渡辺よしのぶさんの畑
中でも一番上質とされるのは、「影苧」。それらは主に、特上物として新潟県へ出荷されていきます。
豪雪地帯の昭和村では、お米の収穫がままならず、それよりも安定して生産できるからむしはとても貴重な換金作物でした。こうして、村の人たちは、自分たちのおじいちゃんやおばあちゃんが、代々からむしを大事にしていた姿を見てきました。

尺棒を使って3〜4尺ほどの長さに切り揃えて束ねる
刈り取ったからむしは、手でしごきながら葉を落とし、長さを揃え束ねると、家の回りの用水路に水漬けをします。たっぷりと水を吸った茎の皮を剥ぐところまでが、基本的には男性(苧引きをする妻を持つ夫)の仕事です。
からむし刈りと同様に、皮剥ぎも一本ずつ手作業で、茎の一箇所に指を入れ、皮剥ぎをしていきます。
剥いだ皮は、丁寧に端を揃え、再び水に漬けたのち、苧引き作業へと移ります。

苧引きをする渡辺さん
一連の作業の中でも、「苧引き」は女性たちに受け継がれた仕事です。
一定したリズムで、繰り返される苧引きの音。余分な表皮は滑らかに削ぎ取られ、引いたばかりのからむしの青々とした香りが立ちます。最後には、うっすらとした、淡い緑に輝く繊維だけが引き出されます。

苧引きによって引き出される、青緑色に透き通る独特な光沢を、昭和村の人たちは「キラ」と呼びます。このように、美しい「キラ」が出せるようになるには、自然によって左右された素材の質と、熟練の技が必須です。数年単位の修行では、到底身に付かない目利きと技が必要だといいます。
こうして、刈り取りから、皮剥ぎ、苧引きをされたからむしは、直射日光の当たらない室内で3〜5日ほどかけて、じっくり陰干しされます。

干されたからむしは、完全に乾燥したところで、それぞれの質をみて上物・特上物など等級別に100匁(約375グラム)に束ねられ、越後に出荷されていきます。
からむし産業の新しい動き

その昔から、昭和村のからむしは貴重な換金作物として、出荷する為に大切に扱われてきました。
一方、村の女たちの手仕事として、野良着など自家用で使う布をつくる地機織りの文化がありました。繊維を細く裂き、一本ずつつなぎあわせて糸を績み、はた織りをする作業は、嫁に入った女たちがあたり前に身につけなければいけない仕事のひとつでした。
貴重な換金作物だったからむしは、着物業界の衰退や着物産地の技術者の高齢化、後継者不足もあり、必要とされる量にも限りが出てきました。売れずに余ったからむしを、地機織りの技術で、からむしの布を織あげた、織物が村のなかで生産され始めます。

(村のおばあちゃんが織った、からむしの布)
次回は、素材を活かしてモノづくりをするようになった、昭和村の新しい活動について、ご紹介します。
参照
参照資料
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★ひとと自然と暮らす日々を過ごしたい
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中條美咲
昭和64年1月3日 長野県生まれ。 2014年 暮らしの中で出会ったものや人、そこから感じたことを文章で伝えていきたいと思い 「紡ぎ、継ぐ」というブログを始める。” 見えないものをみつめてみよう。” ということをテーマに、書くことを通じて多くの出会いに触れながら、感じる力を育てていきたい。 現在は「灯台もと暮らし」と「PARISmag」にてライターとして活動中。
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