
TOP » コラム » 【連載】四季のたしなみ、暮らしの知恵(一三)新春!江戸から続く開運七福神めぐり
お役立ちコラムコラム場所
【連載】四季のたしなみ、暮らしの知恵(一三)新春!江戸から続く開運七福神めぐり
2016.01.31
「1年の計は元旦にあり」と言われますが、新年の始まりは、初詣だけでなく各所にある七福神を訪ねてみるのは如何でしょう。単なる神社仏閣巡りだと、あなどるなかれ。何かしらの出会いやら、新たな発見が待っているかもしれません。
暮らしに根付いていた七福神巡り
庶民が自分たちのささやかな幸せを祈り、現世利益を求める気持ちは、いつの時代も変わりません。身近で実現可能な願いを叶えるべく広まったのが、七福神信仰。その原型は、実は室町時代から始まっていました。

流行神ですから、その成り立ちは必ずしも一筋縄で説明できるものではなく、初めから固定メンバーとして7つの神様が確定していたわけでもありません。いろいろに組み合わせられ、紆余曲折を経て、吉祥天やら鍾馗さま、お多福、福助までもがメンバーに加わったこともあったといいます。
室町時代には京の町衆において、まず夷・大黒(えびす・だいこく)が話題となって祀られ、やがて鞍馬山の毘沙門天、竹生島の弁財天などが候補になり、次第に七福神の原型を為していきました。
さらに七福神のうち、前回紹介したえびすさまだけが、日本発祥の神様なのです。ほかの神様の出身は多国籍で、しかも、もとは荒ぶる神々だったものが、日本的な信仰や文化的背景によって様々に解釈され、穏やかな善神となり、笑顔をたたえた福神となった、というわけなのです。

昭和の銭湯で飾られることの多かった宝船のタイル絵。今では貴重なものに。
また、日本人の好みや神仏混淆(こんこう)の考え方からでしょうか、七福神のメンバーは実に多様。神様と仏様、そして仙人が並び、布袋様に至っては唐の時代に実在した禅僧です。大黒天、毘沙門天、弁財天はインドのヒンドゥー教から伝来した神様で、布袋尊は中国の仏教、福禄寿(ふくろくじゅ)と寿老人(じゅろうじん)は中国の道教から生まれた仙人。えびすだけが日本で生み出されたキャラクターとされています。こうした個性豊かな布陣が揃った習合体が七福神なのです。
一説には、江戸時代に徳川家康の指南役であった天海大僧正(てんかいだいそうじょう)が、お経の一節である「七難即滅して七福即生」という文言からヒントを得て、7つの徳目をそなえたものが福徳円満であり、それを神仏集合体の中から、7つのキャラクターに当てはめて具現化したのだとも言われています。
七福神といえば宝船に乗っている姿が有名…でもなぜ?
また、七福神と言えば、7人の神様が船に乗ったイメージが有名ではないでしょうか。これは、江戸時代に流行った宝船と七福神の組み合わせ。江戸時代には「七福神の乗った宝船が描かれた絵図を枕に敷くと、良い初夢が見られる」と評判になっていました。

江戸時代に流行した、初夢グッズは、こうした吉祥の絵を枕元に敷いて福を呼び込んだそう(筆者・私蔵)
その発想の起源を遡りますと、中国・道教にて八仙という仙人たちの題材にたどり着きます。道教には、仙人たちが揃って海を渡っている、八仙渡海図というモチーフがありました。そこからヒントを得て宝船が生まれ、正月は宝船の絵を枕下に敷くと良いという縁起担ぎが生まれたといいます。
初夢といえば「一富士二鷹三茄子」が吉夢として相応しいと言われていますが、そうしたものを促すものとして七福神はさらに庶民の間で馴染み深いものとなっていくのでした。
歴史ある七福神巡りのコース2つをご紹介
江戸時代中期は人気がうなぎのぼり。七福神を祀った寺社を巡る“七福神詣で“が流行するようになります。
現在でも各地で七福神めぐりが活発に行われ、都内だけでも、そのコースは30カ所にものぼります。江戸時代の書物に因れば、文化・文政年間に、七福神参りの参詣コースに関する記述がみられ、現在とはまた違った順路がいくつかあった様子が伺えます。江戸時代の文献から、2つほどご紹介しましょう。

七福神巡りには参詣のお供に、こういった絵柄を携えて御朱印やスタンプを押していく楽しみもあります
江戸七福神(現在の谷中七福神の原型。文政6年・享和雑記による)
弁財天(不忍池・弁天堂)、毘沙門天(谷中・天王寺)、寿老人(谷中・長安寺)、大黒天(西日暮里・経王寺)、布袋尊(西日暮里・修性院)、恵比寿(西日暮里・青雲寺)、福禄寿(田端・東覚寺)
※現在は、大黒天を上野の護国院としています。
文化12年「十方庵(遊歴雑記)」の語る七福神
毘沙門天(神楽坂・善国寺)、大黒天(小石川・伝通院)、福禄寿(田端・東覚寺)、布袋尊(日暮里・妙了院)、寿老人(谷中・長安寺)、弁財天(不忍池・弁天堂)、恵比寿(浅草・浅草寺)
七福神との偶然の出会いも楽しんでみてはいかが
七福神めぐりに特別なルールはありません。確かに道順等で効率的な巡回法はありますが、1日で回ろうとすると、それぞれの地点から距離があり、徒歩ではなかなか辛いものがあります。その人に合った順路や興味のある内容でルートを選ぶのが一番です。

各地には、それぞれの七福神があり、それを巡るコースがあります。
自分の経験ですが、もし、好きなキャラクターが居たら、たとえば大黒様だけを選んで各地を歩くなど、そういう捉え方でも面白いと思いますし「七福神すべてを通して回れなかったらご利益が薄いのでは…」などと、あまり悩むことはありません。
むしろ、どこかの町へ用事があって訪れ、その近くに偶然七福神の誰かと出会いがあったなら、それはそれで縁をつなぐことになる…そういう運命的なアプローチも素敵ではありませんか? 引き続き、神々を紹介する七福神ツアーは、この連載にて続きます。各キャラクターが登場しますので、お気に入りの神様と出会ったら、開運の手ほどきを預けてみてはいかがでしょうか。
-
桃猫
東京生まれ。茶人として各地に赴き、日々、中国茶の茶話会を開催。とうきょうの街歩きをフィールドワークとして銭湯、寺社、名跡などを探索するうちに、グルメや趣味の数々をつづったブログ=桃猫温泉三昧を継続し、今年10周年を迎えた。その趣味は多岐に渉り、銭湯と温泉巡りで960湯達成、鉱物マニア、古書蒐集、無類の麺喰いでもある。スピリチュアルな方面にも詳しい。
桃猫の記事一覧
-
-
コラム
【連載】四季のたしなみ、暮らしの知恵(一九)食卓に欠かせないフランス産「ゲランドの塩」との出会い
2016.05.15
-
-
コラム
【連載】四季のたしなみ、暮らしの知恵(一八)都内で銭湯にどっぷり"浸かる"暮らし
2016.04.10
-
-
コラム
【連載】四季のたしなみ、暮らしの知恵(一七)春先の手土産には「向島 長命寺」の桜もちを
2016.03.25
-
-
コラム
【連載】四季のたしなみ、暮らしの知恵(一六)七福神のセンター「大黒天」は台所の神様
2016.03.11
-
-
コラム
【連載】四季のたしなみ、暮らしの知恵(一五)七福神のイケメン担当?虎とムカデを従える戦の神様「毘沙門天」
2016.02.26