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【連載】四季のたしなみ、暮らしの知恵(七)ハレの日に食された「武蔵野うどん」に出会う旅
2015.10.24
東京には、蕎麦と名の付く店があちらこちらにあります。しかし、手打ちうどん専門店となると、案外見かけないのではないでしょうか? かくいう私も、あるきっかけから都内近郊~埼玉県のあたりに手打ちうどんの専門店が多いことに気づかされました。
10年ほど前、はじめて地粉うどんに出会ったとき、うどんは白いものとばかり思っていましたから、少し黄色っぽい、飴色したうどんを目の前にして、正直びっくりした覚えがあります。

地粉うどん、ファストフードでもありスローフードの郷土食。幅広いのは、うどんの切残しを添えているのも、ある意味特色。
秩父札所巡りでもしようかと向かったある日、途中、鉱泉へと浸かり、休憩処でふと見上げた先に「手打ちうどんあります」の張り紙を見つけました。お腹も減ったことだし、ローカルな昼食もいいものだと思って注文することに。
運ばれてきた丼には、お揚げと同じぐらい茶色した麺があり「秩父と言えば蕎麦の栽培も盛んだから、うどんと蕎麦を取り違えたのか?」ぐらいに思い、食べてみると、小麦の風味のする田舎うどんではありましたが、まぎれもなくうどんそのもので、今まで食べたことのない滋味深い食感だったのです。
食べ終わって店の方に伺ってみると、地元埼玉では農家が小麦を栽培し、精白しない粉のままうどんを打つから色も茶色っぽくなり、昔からふつうに食べているとのことでした。
これが自分と地粉うどんとの初めての出会いです。
手打ちうどんは郷土の行事食!
その後、「武蔵野うどん」というカテゴリーがあることを知ったのは、その名付け親でもある=故・加藤有次さんによる「武蔵野手打ちうどん保存普及会」の存在と彼の著書を読んでからでした。
小平では、糧(かて)うどんと称して、青菜など野菜を別皿に、冷たい盛りうどんを温かいつけ汁と合わせたスタイルで食しています。

『かつて、武蔵野では夕暮れどきになると、隣から隣へと、うどんを打つ音が聞こえてきたものでした。それだけでなく、結婚式や葬式といった人が集まる機会ともなると、近所が総出でうどんを打ち、ごちそうを肴に酒を飲んだあと、必ず“本膳”として、うどんがふるまわれたものでした。』(加藤有次著『わが家はうどん主義!』より抜粋)
そもそも武蔵野台地は、水に乏しく米作りに不向きな場所だったようで、農作するのに、この土地を支えてきたのは、ヒエ、アワや小麦などの雑穀でした。
農家では、盆と正月、祝い事などがあって、ひとが大勢集まるときに、女性たちは自分たちの畑で収穫した小麦を使って、地粉手打ちうどんを打ち、みんなにふるまうことを慣習としてきたのです。今でこそ、うどんを食べるなら冷凍もので手短に揃うご時世ですが、かつては自前で手打ちされたうどんは、謂わば、農家にとってハレの日の食べ物だったのでしょう。

ネーミングはさておくとしても、ざっくり捉えて、東村山市を中心とした清瀬、東久留米、東大和、武蔵村山、小平あたりの都西北部から、隣接した埼玉県所沢、新座、入間、飯能あたりまで、地粉の手打ちうどんを食する文化圏が存在しているのです。

武蔵野台地の手打ちうどんの店は、営業形態の小さなお店が多く、たいていは女性だけのスタッフで賄ってるのも特徴。店舗の場所も、駅前よりは住宅地のなかにあるのも珍しくなく、地元の方のため、作れる分だけ打ち、売り切れたら昼過ぎには閉店するなどのスタイルが多いようです。
地産地消とは言い古された感もありますが、まさに地粉うどんも武蔵野うどんも、農地と隣接した地域で食されてきた昔ながらの小麦文化のひとつです。今でも流行としてではなく、郷土食の豊かさを育むものとして、都内や埼玉に息づいている食文化の一例なのです。
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桃猫
東京生まれ。茶人として各地に赴き、日々、中国茶の茶話会を開催。とうきょうの街歩きをフィールドワークとして銭湯、寺社、名跡などを探索するうちに、グルメや趣味の数々をつづったブログ=桃猫温泉三昧を継続し、今年10周年を迎えた。その趣味は多岐に渉り、銭湯と温泉巡りで960湯達成、鉱物マニア、古書蒐集、無類の麺喰いでもある。スピリチュアルな方面にも詳しい。
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