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【連載】四季のたしなみ、暮らしの知恵(一二)えびす様で年明け!大祭「十日えびす」開運ツアーのすすめ
2016.01. 8
商売繁盛や招福のアイコンとして古くから親しまれる“えびす”さま。七福神の中でも、もっとも親しまれた神様のひとつです。けれど表記は、恵比寿や恵美須、恵比須と様々。誰もが一度は名前を聞いたことのある、えびす様という神様は、いったい何者なのでしょうか?
えびすとは何ぞや?

実のところ、えびす様としての出自は諸説あってハッキリとは掴めません。「夷」という言葉の語源から異国の人というイメージがあります。また、室町時代から恵比須大黒(えびすだいこく)と呼ばれ、えびす様と大黒天を福の神として二体を一対として並べてまつる民家も出現しました。えびす様の鯛を抱いた姿から連想されるように、早くから漁業の神、市場の神、商業の神としての信奉があったようなのです。
いまでこそ陸路が発達しましたが、かつては海洋交通こそが主でした。そのため、前面が海へと向かって開けていた土地において、えびす信仰が、そこで生活する人々から興ったものだと考えられます。
海の民と陸の民との間にある交易、その接点こそが市(いち)であり、えびすは、その市神として漂着神的な性格を持っていました。つまり市場で出会う交易者、見ず知らずの他郷から来た人々、その外来者を歓待する賑わいの中で、市の祝祭空間を演出する商業神的なアイコンとしてえびす様が定着し、商いが活気づくという演出装置の役割を担っているのです。

きく恵比寿(下谷七福神)。台東区・竜泉にある飛不動尊正宝院に祀られている。願い事がよくキクように、と菊をそなえてお参りすると良いとか。
関西では「えべっさん」「十日ゑびす」、掛け声は「商売繁盛で笹持って来い!」
さて、そんなえびす様ですが、なぜか関東より関西での方が圧倒的に人気があります。関西圏に人気が偏った勢力図の理由は、なぜでしょうか?
東京では、えびす様を御祭神としてお祀りするというイメージはなく、むしろ恵比寿駅と言うJR駅名になった有名なビール会社の宣伝とか、ジーンズメーカーの名前とかに用いられています。より身近な福の神、商売の神様として認知されているのかもしれません。
思うに関東には“お酉(とり)さま”と呼ばれる多くの鷲神社や大鳥神社があります。11月の酉の日には“酉の市(とりのいち)”という大祭が各神社で賑やかに開催され、縁起物として福を掻っ込む熊手が配られます。これと同じ性格のものが、関西では恵比寿神を親しみこめて呼ぶ「えべっさん」にあたるのではないでしょうか。
えべっさんの本場は日本三大ゑびすとして、大阪の今宮戎(いまみやえびす)神社、えびす宮総本社の西宮神社、京都ゑびす神社が有名です。そして、特に賑わいを見せるのが、1月10日に開催される大祭「十日ゑびす」(初えびす)なのです。
関東近郊にもあった「本覚寺」夷堂の十日えびす
関東近郊で、えびす大祭が開催されている場所は実は少ないのです。平塚三嶋神社で開催される「新春えびす祭り」(平成28年は1月17日)とともに鎌倉の本覚寺・夷堂(えびすどう)では、毎年、1月10日に「本えびす」が行われ、たくさんの参拝者で、狭い境内が俄かに賑わいます。

鎌倉の本覚寺・夷堂
どんな祭りかというと、当日は商売繁盛・福徳円満を願い、笹に打ち出の小づちや大福帳、ひょうたん、米俵など縁起ものが飾り付けされた「福笹」が振舞われます。
いつもはとても静かな境内ですが、この時ばかりは多くの参詣客で参道が黒山の人だかりになります。正門側から連なる参道脇には、えびす様の笑い顔や地元商店街の店名が記載されたたくさんの提灯と共に、普段は地味な参道に華を添えます。

本覚寺・夷堂で振舞われる福笹。 福笹は、えびす様の釣り竿になぞらえている。
鎌倉えびすは、関西の規模に比べてとてもローカルなお祭りですが、地元の方々が毎年が愉しみにしているのが、福餅授与。正午になると夷堂前で、地元から選出された福男や福娘などによって餅つきされた、福餅と呼ばれるぼた餅と甘酒が先着順で無料で振舞われます。
また、有名料亭の「葉山 日影茶屋」が提供している日影大福が、この日だけはえびす様の刻印が押されて販売される、えびす大福として販売され、隠れた人気を呼んでいます。
福笹で使われる笹は、夷堂の奥の庭にたくさん生えている鳳凰竹(ホウオウチク)を利用して作っています。まさに自己調達の地産地消。なお、縁起ものも各種取りそろえられていますが名物のお土産には「にぎり福」が良いでしょう。

恵日須・大黒天堂(浅草名所七福神)。浅草寺の境内にあり信奉も篤い、お堂は戦後に建てたものだが2体の石像は江戸時代のものとされる。
一網打尽という言葉がありますが、えびす様は網ではなく、1本の釣り竿と鯛一匹を抱えておられます。これは後世になって付け足されたことかもしれませんが、足るを知るという言葉からも連想されるように、多くを欲張らず、授かった幸せに感謝して笑顔で過ごしましょうという気持ちも大切だということです。
新年は、福徳円満を授かるえびす様を新春に思い描いたり、お参りしたりするのは如何でしょうか? その際は、めでたい、大漁祈願をお祈りするだけでなく、日々のささいなことにも感謝できると良いですね。
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桃猫
東京生まれ。茶人として各地に赴き、日々、中国茶の茶話会を開催。とうきょうの街歩きをフィールドワークとして銭湯、寺社、名跡などを探索するうちに、グルメや趣味の数々をつづったブログ=桃猫温泉三昧を継続し、今年10周年を迎えた。その趣味は多岐に渉り、銭湯と温泉巡りで960湯達成、鉱物マニア、古書蒐集、無類の麺喰いでもある。スピリチュアルな方面にも詳しい。
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