大人すはだ大人がすはだで暮らす時間

TOP » NYの森からきれいに私生活 » 第58回 シンプルに暮らすということ(その2)ごみなのか、文化なのか

NYの森からきれいに私生活もの場所

第58回 シンプルに暮らすということ(その2)ごみなのか、文化なのか

2016.12.18

ごみ, シンプル, リサイクル, 小手鞠るい, 秀くりーむ

年に一度の日本帰国。今回たずねた町は、到着後恒例の成田温泉を皮切りにして、東京では浅草に滞在し、上野、根津、根岸、谷中などを歩きまわって、鎌倉へも小旅行をし、その後、新幹線で京都へ。途中、姫路に立ち寄って、岡山へ。こんな日程で、夢のような3週間を過ごしました。
 
この3週間で、私たち夫婦の出したごみは、ニューヨーク州の森の自宅で出しているごみの、およそ3ヶ月分くらいに相当していたのではないかと推察できます。それくらい、日本で出したごみは多かった……と反省していますが、同時に、それくらい、普段はごみを出していないという自負もあります。
s_58-1IMG_1359.jpg
まず、ニューヨーク州の田舎町(つまり、ここウッドストックは、マンハッタンのような大都会ではない、と思って読んで下さい)のごみ事情からお話ししましょう。
 
ごみの回収は、毎週1回してもらえますが、有料です。ごみの量とは関係なく、毎月お金を払っています。ごみの日には、同じ業者によるリサイクル物の回収もあります。ごみとリサイクル物の回収業者は、公的な機関ではありません。また、公的な機関の定めるごみやリサイクルの決まり、というようなものもありません。つまり、すべては個人と企業に委ねられている、と言っていいでしょう。
 
ごみの出し方も、個人の自由です。日本にあるような「分別」というものもありません。私にはいまだに日本の「分別」のやり方が、まったく理解できていません。お菓子やチョコレートなどを包装している透明なプラスティックには「プラ」という表示がなされていますが、あれは「リサイクルしなさい」という意味なのか、どうなのか? 浅草と京都で借りていたゲストハウスの大家さんはどちらも「分別ごみについては、あなたにはわからないだろうから、分別しなくていい」と言っていましたが。そもそも、分別とリサイクルは、どう違うのか?
s_58-2DSC_0037.jpg
その点、ニューヨーク州のリサイクルは、いたってわかりやすいのです。リサイクルの対象となっているのは日本同様、ガラスの瓶、ペットボトル、缶、プラスティックの容器、アルミ製品などなどですが、ウッドストックの場合、これに紙類が加わります。雑誌、新聞、本、便箋、封筒、書類、メモ用紙に至るまで、ありとあらゆる紙類はすべてリサイクルできます。
 
これらのリサイクル物を全部まとめて(分別することなく)、ひとつのごみ箱に入れ込んだものを出していいことになっています。そうなのです、リサイクルのやり方がとっても簡単なのです。「なんでもかんでも一緒くたでいい。分別はこっちでやります」というわけです。これは画期的だと思いませんか? 方法が簡単だから、リサイクルがしやすくなる。実に簡単な論理ではありませんか。この大ざっぱなリサクル方法のおかげで、ごみは日本の半分以下に減ります。  
 
これに加えて、我が家では、生ごみを機械で細かく砕いて土に還せる装置を付けているので、生ごみというものが発生しません。だから、ごみを出す回数は月に一度か、少ないときには2ヶ月に一度くらいで済みます。リサイクルの方も、箱が巨大なので、やはり2ヶ月に一度くらい。
s_58-3.jpg
ところが、日本では、これがどうなったかというと-----
 
たとえば、パン屋さんへ行ってパンを買ったとします。レジではまず、パンをひとつひとつ、個別にプラスティックの小袋に入れてくれます。その後、レジ袋、もしくは、紙袋に入れてくれます。つまり、パンを一個食べるだけで、2種類のごみが出ます。ケーキ類の場合だと、箱に入れたあと、紙袋。贈答用のお菓子の場合、個別に包装され、美しい箱に詰められたものが、美しい包装紙で包まれ、紐をかけられ、それが紙袋に入れられています。雨の日には、デパートなどではこの紙袋をさらにビニールで巻いてくれます。おまんじゅうを一個、焼き菓子を一個、食べただけで、大量のごみが出るわけです。
 
ほっぺも落ちそうなくらい、美味しいパンや美味しい焼き菓子をいただきながら、つくづく思っていました。この丁寧な包装、この美しい包み紙や箱や缶、この技の入ったラッピング、そして、必ずと言っていいほど中に入っている丁寧な説明書き。これらは、日本の文化には違いないと思うのだけれど、それにしても、出るごみが多すぎないだろうか?
s_58-4.jpg
商品を買ったら、まず「袋はいるか、いらないか?」とたずねられ、「いります」と答えれば、ただ茶色の紙袋に突っ込むだけ、というような、あまりにも素っ気ない、味気ない、アメリカの包装(いっそ、アメリカには包装はない、と言ってもいいでしょうか)を思い出しながら、ごみの大量に出る繊細な文化と、ごみの出ない大雑把な文化、私ならどちらに軍配を上げるだろうかと考えました。
 
考えるまでもなく、今の私は後者を選びます。日本の包装は確かに美しい。けれども、美しい包装、つまり、あとでごみになる文化よりも、今は、環境により良い製品、ごみの出ない商品を選んでいくべきではないでしょうか。
 
環境に良い製品として、まっさきに思い浮かぶのが、日本でも愛用していたあきゅらいずの「秀くりーむ」です。クリームそれ自体の素晴らしさは言うまでもないことですが、この製品のパッケージは実に優れている、と、使うたびに私は感心しています。使ったことのある方なら、すでに私の言いたいことは理解して下さるでしょう。「秀くりーむ」は、毎日のつけすぎ、塗りすぎを自然に避けられるようなシンプルな仕様になっているのです。使いすぎを避け、無駄を避ければ、おのずから、出るごみも減ります。
 
ごみ問題は、消費者だけの問題ではありません。ごみを出す側だけがこの問題について考えていたのでは、何も解決しません。ごみになるような製品を作っている側、言ってしまえば、ごみを提供している側が、まず「ごみが出ない」商品を創り出すことに一意専心しなくてはならないと思います。同時に、買う側もより賢くなって「ごみを買わない」ようにしなくては。
 
文化はとても大切なものだと思うけれど、21世紀を生きる私たちにとって、地球環境は文化よりも大切なものではないかと私は考えます。人は文化を創り出すことができる。しかし、失った環境を取りもどすことはできないからです。
s_58-5IMG_0433 .jpg
小手鞠るい(こでまり るい)

小手鞠るい(こでまり るい)

1956年生まれ。小説家。1981年、やなせたかしが編集長をつとめる雑誌「詩とメルヘン」の年間賞を受賞し、詩人としてデビュー。1993年、『おとぎ話』で第12回海燕新人文学賞受賞。1995年、受賞作を含む作品集『玉手箱』を出版。2005年、『欲しいのは、あなただけ』で第12回島清恋愛文学賞を受賞。2009年、原作を手がけた絵本『ルウとリンデン 旅とおるすばん』でボローニャ国際児童図書賞。主な著書に『空と海のであう場所』『望月青果店』『九死一生』『美しい心臓』『アップルソング』『テルアビブの犬』『優しいライオン---やなせたかし先生からの贈り物』『私の何をあなたは憶えているの』など多数。
仕事部屋からのつぶやきは→https://twitter.com/kodemarirui

小手鞠るいの記事一覧

  • 第60回 生きることは、愛すること-------『いつかの夏』を読んで

    NYの森からきれいに私生活

    第60回 生きることは、愛すること-------『いつかの夏』を読んで

    2017.01.21

  • 第59回 シンプルに暮らすということ(その3)素顔で生きる

    すはだ

    第59回 シンプルに暮らすということ(その3)素顔で生きる

    2017.01. 9

  • 第58回 シンプルに暮らすということ(その2)ごみなのか、文化なのか

    NYの森からきれいに私生活

    第58回 シンプルに暮らすということ(その2)ごみなのか、文化なのか

    2016.12.18

  • 第57回 シンプルに暮らすということ(その1)多過ぎる選択肢

    NYの森からきれいに私生活

    第57回 シンプルに暮らすということ(その1)多過ぎる選択肢

    2016.12. 4

  • 第56回 ツイッターから始まるラブ・ストーリー

    NYの森からきれいに私生活

    第56回 ツイッターから始まるラブ・ストーリー

    2016.11.19

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

おすすめ記事

  • 第60回 生きることは、愛すること-------『いつかの夏』を読んで

    NYの森からきれいに私生活

    第60回 生きることは、愛すること-------『いつかの夏』を読んで

    2017.01.21

  • 第59回 シンプルに暮らすということ(その3)素顔で生きる

    すはだ

    第59回 シンプルに暮らすということ(その3)素顔で生きる

    2017.01. 9

  • 第57回 シンプルに暮らすということ(その1)多過ぎる選択肢

    NYの森からきれいに私生活

    第57回 シンプルに暮らすということ(その1)多過ぎる選択肢

    2016.12. 4

編集部ピックアップ

  • 【連載】目をそらしていた自分と向き合う第一歩|○○系からの成仏(最終回)

    コラム

    【連載】目をそらしていた自分と向き合う第一歩|○○系からの成仏(最終回)

  • 【連載】

    ピックアップ記事

    【連載】"わたし"の時間、"母"の時間|母さんと呼ばないで(3)

  • 【連載】まちのみそ屋の女将さんへの道|発酵とすはだのおいしい関係(20)

    ピックアップ記事

    【連載】まちのみそ屋の女将さんへの道|発酵とすはだのおいしい関係(20)

「大人すはだ」限定のコラム連載中

  • からだを慈しむ、薬草の旅
  • 四季のたしなみ、暮らしの知恵
  • 発酵兄妹・妹の 発酵とすはだのおいしい関係
  • すこやかに生きること
  • おかわりおやつ
  • 酸いも甘いも家族の内
  • 中島デコのうみ•そら•みどりを召し上がれ!
  • 小手鞠るいのNYの森からきれいに私生活
  • あきゅらいず美養品
pagetop