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NYの森からきれいに私生活

第51回 野菜畑で見る夢は

2016.09. 6

オーガニック, ベジタリアン, 小手鞠るい, 文春文庫, 野菜畑で見る夢は

今からちょうど9年前の2007年から1年半あまり、月刊の健康雑誌に恋愛小説の連載をしていたことがあります。
 
タイトルは『野菜畑で見る夢は』。
 
毎回、ひとつ、野菜を取り上げて、その野菜にちなんだラブストーリーを書いていたのです。編集部では「野菜小説」と名づけていました。単行本になったときにも、帯には「野菜畑で愛をはぐくむ、はじめての野菜恋愛小説」という謳い文句が記されていました。

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実はこの作品、私にとって初めての雑誌連載だったのです。文芸誌ではなくて健康雑誌で、野菜小説を連載していた、というのが、いかにもヘルシー志向の私らしいなぁと笑ってしまいます。現在は文春文庫で読むことができます。
 
この作品のなかで取り上げた野菜は、アスパラ、パセリ、そら豆、トマト、ブロッコリー、かぼちゃ、じゃがいも、いちご、水菜、大根、キャベツ、蕗、ほうれん草、ラディッシュ、ズッキーニ、ししとう、人参など。
 
そのほか、脇役として、それはもういろんな野菜が登場しています。読むだけで、ビタミンが摂取できて、お肌がつるつるになりそうな気がしませんか? 実は連載中、書いているだけで、体じゅうに元気と幸せが満ちてくるような気分になれていたことを、なつかしく思い出します。
 
連載中、お料理好きな読者の方が、私が作品のなかに書いているレシピを実践し、「こんな一品ができあがりました!」と言って、お料理の写真を編集部に送ってきて下さったこともありました。いえ、写真だけではなくて、「人参のシフォンケーキ」そのものが届いたことも。

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この連載小説を書いていたとき、毎月、近所に住んでいる自然農法の実践者のご夫婦から、野菜のお話を聞かせていただいていました。おかげで、野菜に関する知識も増え、野菜料理のレシピにも詳しくなりました。
 
ご夫婦が実践していた自然農法は、農薬や化学肥料や殺虫剤などをいっさい使用しないで、
自然と土地の恵みをあるがままの形で収穫する、という農法でした。野菜畑とは別に、そばやひまわりを畑に植え、それらの枯れ草を肥料として使っていました。
 
畑にお邪魔したときには、季節の野菜をどっざり買わせていただいていたのですが、ご夫婦の畑で穫れた根菜-----じゃがいもや玉ねぎや人参など----の、なんと小さくて、可愛らしかったこと! アメリカのスーパーで売られている野菜の巨大さは、きっと農薬によるものなのでしょう。

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自然農法で丹精された野菜。とにかく、なんでも小さいのです。まるで小人の食べる野菜みたいに。
 
そして、葉っぱ類の野菜-----レタスやケールや水菜など-----は、虫食いの穴だらけ。
 
ところが、小さくて、穴だらけの野菜たちの、なんと美味しいこと! 
 
トマトって、こんなに甘かったんだ。レタスって、こんなに柔らかかったんだ。と、感激することしきり。自然農法で穫れた玉ねぎをベースにした料理の味ときたら、それまでの味にかかっていた「霧が全部、晴れました」と言わんばかりにくっきりしていたのです。
 
残念ながら、数年前に、このご夫婦はカリフォルニア州に引っ越していかれたので、それ以来、小人たちの野菜は食べられなくなりましたが、野菜はなるべくスーパーでは買わないで、ファーマーズマーケットと呼ばれている農家直営のお店、または、オーガニックフード店で買うようにしています。
 
ただ、最近では、スーパーマーケットにも健康志向は広がってきているようで、行きつけのスーパーの野菜コーナーには、オーガニックと非オーガニックの野菜の両方が売られています。バナナなどもそうですが、食べ比べてみると、明らかに味や風味が違うのです。値段は、オーガニックの方がもちろん少々高めです。手間暇がかかっているのですから、高いのは当たり前。でも、高いだけの価値はじゅうぶんあります。
 
渡米してから、ベジタリアン(ただし、魚は食べています)になった私ですが、明らかに体調がよくなりました。肉食をしていた頃に比べると、体がずいぶん軽いのです。軽いから、楽に走れるし、走るからおなかがすいて、野菜もいっぱい食べられます。食と運動のいい循環ができているなぁと、私の体が感じています。

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野菜はそれぞれの季節の産物ですから、野菜をふんだんに食卓に取り入れるということは、季節感を食生活に取り入れることに他なりません。季節感のある暮らしに、野菜は欠かせない存在ですね。
 
そろそろ、朝夕、鈴虫が鳴き始める季節になりました。穫れたてのトマト、なす、ズッキーニ、赤ピーマン、セロリ、人参、玉ねぎを使って、さあ、今夜はラタトゥユを作りましょうか。もちろん、手づくりのパンを添えて。
 
 
 

小手鞠るい(こでまり るい)

小手鞠るい(こでまり るい)

1956年生まれ。小説家。1981年、やなせたかしが編集長をつとめる雑誌「詩とメルヘン」の年間賞を受賞し、詩人としてデビュー。1993年、『おとぎ話』で第12回海燕新人文学賞受賞。1995年、受賞作を含む作品集『玉手箱』を出版。2005年、『欲しいのは、あなただけ』で第12回島清恋愛文学賞を受賞。2009年、原作を手がけた絵本『ルウとリンデン 旅とおるすばん』でボローニャ国際児童図書賞。主な著書に『空と海のであう場所』『望月青果店』『九死一生』『美しい心臓』『アップルソング』『テルアビブの犬』『優しいライオン---やなせたかし先生からの贈り物』『私の何をあなたは憶えているの』など多数。
仕事部屋からのつぶやきは→https://twitter.com/kodemarirui

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