
2015年も、残すところ、あとわずかになりました。今年も「よく読み、よく書き、よく走った」私の仕事部屋の1年をふり返りながら、ウッドストックの森から日本に向かって巣立っていった、12羽の小鳥たちを紹介します。
1月---『素足の季節』(ハルキ文庫)
三度の食事よりも青春小説が好きという、熱血編集者と組んで書きおろしました。岡山で高校生活を送った私の青春時代をそのまま丸ごと焼き上げた「もぎたてピーチ・パイ」みたいな作品(岡山は桃の名産地)。主人公は、本と孤独と妄想が好きな17歳。ページをめくるたびに、70年代に流行ったフォークソングが聞こえてくる1冊です。
2月----『お手紙まってます』(WAVE出版)と『きつね音楽教室のゆうれい』(金の星社)
前者はカンガルーのルーくん、後者はきつね音楽教室のスミレ先生が主人公。カンガルー星で暮らすルーくんは、ある日、森の中で不思議な手紙を発見します。スミレ先生は、夜になるとピアノを弾きにくる、不思議なピアニストに遭遇します。ルーくんとスミレ先生は、いったいどうやって、謎を解明したのでしょうか。2冊とも児童書。

3月----『また明日会いましょう』(KADOKAWAの文庫)と『思春期』(講談社)
西新宿にあるホテル(私のお気に入りのホテルがモデル)を舞台にして、コンシェルジュの活躍と小説家の卵の女の子の大奮闘を描いたユーモア小説が前者。対照的に、不安、劣等感、嫉妬、自己嫌悪など、ネガティブな感情オンパレードだった、私自身の思春期をあますところなく描いたのが後者(児童書)。私は今でもこの「暗い少女」と大の仲良し。
4月----『空中都市』(ハルキ文庫)
フィギュアスケートでペアを組んで滑るふたりの青春と恋愛を描いた『ガラスの森』『はだしで海へ』につづく、青春小説3部作の完結編。3作とも、1月に送り出した『素足の季節』と同じ編集者がパートナー。空中都市というのは、ペルーのマチュピチュにある遺跡の別名です。この作品を書くために、ペルーに取材旅行に出かけました。
5月----『君が笑えば』(中央公論新社)
2年あまり雑誌に連載したあと、単行本にまとめた長編小説。主人公は、ジャズピアニストと写真家と、夫に先立たれた喫茶店経営者とその娘。4人の織りなすタペストリー。舞台は、岡山、ハワイ、ニューヨーク、六本木、そしてコスタリカと、世界を駆け巡ります。ジャズと写真と旅の好きな方におすすめ。自分では「仕事小説」だと思っています。

7月----『あんずの木の下で 体の不自由な子どもたちの太平洋戦争』(原書房)
私にとって初めての「児童書のノンフィクション」。書いた、というよりも、チャレンジした、という感じ。東京からどんどん送られてくる大量の資料と書籍に埋もれて書いた作品。締め切りもタイトでしたが、気力で乗り越えました。編集者も私も身内に障害者がいるせいか、ふたりの執念で実現したような1冊です。
9月----『テルアビブの犬』(文藝春秋)
構想から出版まで、長い時間がかかりました。悲願というか、念願というか、これも執念の1冊かもしれません。子どもの頃、読んで、号泣した童話『フランダースの犬』の日本語版。そこに、高校時代に私の体験した、歴史上の出来事を組み込んであります。世界各地でテロ事件の横行する今だからこそ、出すべき作品だったと思っています。

10月----『優しいライオン やなせたかし先生からの贈り物』(講談社)
中学時代から45年間、師と仰いできたやなせ先生に捧げる作品。先生が30年、編集長を務めてこられた雑誌「詩とメルヘン」に詩を投稿したのが、私の物書きとしての原点です。この作品の編集者も「詩とメルヘン」のファン。アンパンマンの作者だけではない先生の、銀河系的、宇宙的な魅力を伝えたいと思って書きました。
11月----『私の何をあなたは憶えているの』(双葉文庫)
ウェブマガジンで2年くらい連載していた小説を、文庫オリジナルとしてまとめたもの。ミステリータッチの長編小説です。書きながら「このあと、どうなるのだろう?」と、はらはらしていました。テーマは、過去と記憶と魂。この作品は、哲学者の池田晶子さんの著作から、大きな影響を受けています。
以上、駆け足でふり返ってみたところ、ここまでの小鳥の数は、合計11羽。卵を孵すために、途方もなく長い時間、必死であたためつづけていた子もいれば、餌やりが大変だった子もいますし、何もかも順調で、いたって育てやすかった子もいます。うちから巣立っていった小鳥たち。みんな、それぞれに可愛いです。現在の親鳥の心境としましては、ひな鳥たちもよくがんばってくれましたが、親鳥も我ながら、よくがんばったと思います。

ここまで読まれて、「おや?」と思われた方もいるかもしれません。そうなんです、冒頭には「12羽」と書きました。最後の1羽がまだ残っているわけです。12羽目の小鳥。実はこれ、10月に始めたツイッターなのです。ご存じの方も多いかと思いますが、ツイッターには小鳥のマークが付いていますね。日本では、ツイート=つぶやく、と呼ばれていますが、アメリカでは「さえずる」。何はともあれ「ツイッター=小鳥」には変わりはありません。
ハイテク音痴で、SNSなど大の苦手な私がなぜ、ツイッターを始めたのか?
これには深い訳があります(浅い訳かもしれませんが)。出版不況。本が売れなくなっている。最近の若い人は本を読まない。などなど、日本へもどるたびに、耳に胼胝(たこ)ができるほど聞かされている言葉です。出版関係者にとっては、泣き言というか、愚痴というか、嘆きのようなものかもしれません。日本人の本離れ。これは、1年に一度しか帰国しない私の目にも、明らかにそのように映っています。電車に乗っても、文庫本や雑誌や新聞を読んでいる人はほとんどいなくて、みんなスマホか携帯電話とにらめっこ。だけど、これは時代の趨勢(すうせい)。いくら嘆いても、進んだ社会はもとへはもどりません。

では、本を売るためには、どうすればいいのか。答えは簡単です。物を売るために欠かせないものは宣伝ではないでしょうか。作家が自分の書いた本を宣伝する。これは、よく考えてみれば、当たり前の行為。書いたからには、読まれて欲しい。読んで欲しければ「読んで下さい」とお願いし、「こんな作品です」と積極的に紹介していく。12羽目の小鳥はそんな役割を担って、きょうも森の仕事部屋の窓から、日本にいる読者のみなさまの手のひらを目指して飛んでゆきます。
1月---『素足の季節』(ハルキ文庫)
三度の食事よりも青春小説が好きという、熱血編集者と組んで書きおろしました。岡山で高校生活を送った私の青春時代をそのまま丸ごと焼き上げた「もぎたてピーチ・パイ」みたいな作品(岡山は桃の名産地)。主人公は、本と孤独と妄想が好きな17歳。ページをめくるたびに、70年代に流行ったフォークソングが聞こえてくる1冊です。
2月----『お手紙まってます』(WAVE出版)と『きつね音楽教室のゆうれい』(金の星社)
前者はカンガルーのルーくん、後者はきつね音楽教室のスミレ先生が主人公。カンガルー星で暮らすルーくんは、ある日、森の中で不思議な手紙を発見します。スミレ先生は、夜になるとピアノを弾きにくる、不思議なピアニストに遭遇します。ルーくんとスミレ先生は、いったいどうやって、謎を解明したのでしょうか。2冊とも児童書。

3月----『また明日会いましょう』(KADOKAWAの文庫)と『思春期』(講談社)
西新宿にあるホテル(私のお気に入りのホテルがモデル)を舞台にして、コンシェルジュの活躍と小説家の卵の女の子の大奮闘を描いたユーモア小説が前者。対照的に、不安、劣等感、嫉妬、自己嫌悪など、ネガティブな感情オンパレードだった、私自身の思春期をあますところなく描いたのが後者(児童書)。私は今でもこの「暗い少女」と大の仲良し。
4月----『空中都市』(ハルキ文庫)
フィギュアスケートでペアを組んで滑るふたりの青春と恋愛を描いた『ガラスの森』『はだしで海へ』につづく、青春小説3部作の完結編。3作とも、1月に送り出した『素足の季節』と同じ編集者がパートナー。空中都市というのは、ペルーのマチュピチュにある遺跡の別名です。この作品を書くために、ペルーに取材旅行に出かけました。
5月----『君が笑えば』(中央公論新社)
2年あまり雑誌に連載したあと、単行本にまとめた長編小説。主人公は、ジャズピアニストと写真家と、夫に先立たれた喫茶店経営者とその娘。4人の織りなすタペストリー。舞台は、岡山、ハワイ、ニューヨーク、六本木、そしてコスタリカと、世界を駆け巡ります。ジャズと写真と旅の好きな方におすすめ。自分では「仕事小説」だと思っています。

7月----『あんずの木の下で 体の不自由な子どもたちの太平洋戦争』(原書房)
私にとって初めての「児童書のノンフィクション」。書いた、というよりも、チャレンジした、という感じ。東京からどんどん送られてくる大量の資料と書籍に埋もれて書いた作品。締め切りもタイトでしたが、気力で乗り越えました。編集者も私も身内に障害者がいるせいか、ふたりの執念で実現したような1冊です。
9月----『テルアビブの犬』(文藝春秋)
構想から出版まで、長い時間がかかりました。悲願というか、念願というか、これも執念の1冊かもしれません。子どもの頃、読んで、号泣した童話『フランダースの犬』の日本語版。そこに、高校時代に私の体験した、歴史上の出来事を組み込んであります。世界各地でテロ事件の横行する今だからこそ、出すべき作品だったと思っています。

10月----『優しいライオン やなせたかし先生からの贈り物』(講談社)
中学時代から45年間、師と仰いできたやなせ先生に捧げる作品。先生が30年、編集長を務めてこられた雑誌「詩とメルヘン」に詩を投稿したのが、私の物書きとしての原点です。この作品の編集者も「詩とメルヘン」のファン。アンパンマンの作者だけではない先生の、銀河系的、宇宙的な魅力を伝えたいと思って書きました。
11月----『私の何をあなたは憶えているの』(双葉文庫)
ウェブマガジンで2年くらい連載していた小説を、文庫オリジナルとしてまとめたもの。ミステリータッチの長編小説です。書きながら「このあと、どうなるのだろう?」と、はらはらしていました。テーマは、過去と記憶と魂。この作品は、哲学者の池田晶子さんの著作から、大きな影響を受けています。
以上、駆け足でふり返ってみたところ、ここまでの小鳥の数は、合計11羽。卵を孵すために、途方もなく長い時間、必死であたためつづけていた子もいれば、餌やりが大変だった子もいますし、何もかも順調で、いたって育てやすかった子もいます。うちから巣立っていった小鳥たち。みんな、それぞれに可愛いです。現在の親鳥の心境としましては、ひな鳥たちもよくがんばってくれましたが、親鳥も我ながら、よくがんばったと思います。

ここまで読まれて、「おや?」と思われた方もいるかもしれません。そうなんです、冒頭には「12羽」と書きました。最後の1羽がまだ残っているわけです。12羽目の小鳥。実はこれ、10月に始めたツイッターなのです。ご存じの方も多いかと思いますが、ツイッターには小鳥のマークが付いていますね。日本では、ツイート=つぶやく、と呼ばれていますが、アメリカでは「さえずる」。何はともあれ「ツイッター=小鳥」には変わりはありません。
ハイテク音痴で、SNSなど大の苦手な私がなぜ、ツイッターを始めたのか?
これには深い訳があります(浅い訳かもしれませんが)。出版不況。本が売れなくなっている。最近の若い人は本を読まない。などなど、日本へもどるたびに、耳に胼胝(たこ)ができるほど聞かされている言葉です。出版関係者にとっては、泣き言というか、愚痴というか、嘆きのようなものかもしれません。日本人の本離れ。これは、1年に一度しか帰国しない私の目にも、明らかにそのように映っています。電車に乗っても、文庫本や雑誌や新聞を読んでいる人はほとんどいなくて、みんなスマホか携帯電話とにらめっこ。だけど、これは時代の趨勢(すうせい)。いくら嘆いても、進んだ社会はもとへはもどりません。

では、本を売るためには、どうすればいいのか。答えは簡単です。物を売るために欠かせないものは宣伝ではないでしょうか。作家が自分の書いた本を宣伝する。これは、よく考えてみれば、当たり前の行為。書いたからには、読まれて欲しい。読んで欲しければ「読んで下さい」とお願いし、「こんな作品です」と積極的に紹介していく。12羽目の小鳥はそんな役割を担って、きょうも森の仕事部屋の窓から、日本にいる読者のみなさまの手のひらを目指して飛んでゆきます。
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小手鞠るい(こでまり るい)
1956年生まれ。小説家。1981年、やなせたかしが編集長をつとめる雑誌「詩とメルヘン」の年間賞を受賞し、詩人としてデビュー。1993年、『おとぎ話』で第12回海燕新人文学賞受賞。1995年、受賞作を含む作品集『玉手箱』を出版。2005年、『欲しいのは、あなただけ』で第12回島清恋愛文学賞を受賞。2009年、原作を手がけた絵本『ルウとリンデン 旅とおるすばん』でボローニャ国際児童図書賞。主な著書に『空と海のであう場所』『望月青果店』『九死一生』『美しい心臓』『アップルソング』『テルアビブの犬』『優しいライオン---やなせたかし先生からの贈り物』『私の何をあなたは憶えているの』など多数。
仕事部屋からのつぶやきは→https://twitter.com/kodemarirui