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【連載】冬になると食卓から納豆が消える理由|発酵とすはだのおいしい関係(11)
2016.03.13
こうじ, みそ屋, 発酵, 発酵とすはだのおいしい関係, 納豆
冬になると、我が家の食卓から納豆が消えます。今年の冬も大好きな納豆を食べた日は、わずか数日。幼少期から当たり前だと思っていたこの光景も、どうやらみそ屋ならではのようです。
納豆はこうじの敵!?
冬はみその仕込みの最盛期。そのため、みその原料であるこうじの製造を毎日行います。以前も話したように、こうじは、蒸した穀物に、こうじ菌を繁殖させたもの。3日かけて菌を繁殖させていく作業のなかで、納豆菌は、こうじ菌の敵となってしまうのです。

発酵食品をつくる発酵菌には、「拮抗(きっこう)作用」というはたらきがあります。ある微生物が他の菌の繁殖を抑えてその微生物のみが増えるという現象です。このはたらきにより、腐敗菌の増殖が抑えられ、発酵食品の保存性が良くなるというわけです。しかし、発酵菌同士がぶつかり戦うこともあります。
それが、こうじ菌と納豆菌の関係です。
目には見えない壮絶な菌のバトル
納豆菌は、発酵菌のなかでも繁殖力が強いとされて、繁殖に適した環境とこうじ菌を繁殖させる環境がよく似ています。ですから、うっかりこうじ室(こうじをつくる部屋)に納豆菌を持ち込むと、なんとこうじが納豆に変わってしまうのです! 厳密には、蒸した米や麦に納豆菌が生えると、香りが納豆臭になったり、すこし粘り気が出たりするのですが、こうなってしまっては、もうこうじとしては使えません。

こうじ室のようす
こうじ室に納豆菌は禁物!ということで、仕込みの時期、みそ屋の食卓から納豆は消えてしまいます。これは、うちのみそ屋でのはなし。友人の蔵では、こうじ菌が納豆菌に負けてはだめだ!とあえて納豆を食べてこうじづくりに臨むそう。
「こうじは赤ちゃん」。
幼い頃、どうして冬はあまり納豆を食べないのだろう?と疑問に思い尋ねたとき、「こうじは赤ちゃんのように大事に育てなきゃいけなくてね、うちのこうじは納豆をあまり好きじゃないから、こうじの手入れの日は納豆は食べないんだよ」と、両親が教えてくれました。
子どもながらに両親が、こうじを“赤ちゃん”と言っている意味がすぐにわかりました。こうじは温度管理が大切ですので、父は数時間置きに真夜中でも起きて、工場に出向き、こうじの手入れをしていたのです。その姿を目の当たりにしていたので、子どもの私でも“赤ちゃん”という言葉で理解できたのだと思います。そして、こうじが何かよくわからない時も、“育てる”という言葉から、生き物なのだということも、子どもながらに思っていました。
仕込みの季節には、食卓の風景すら変わってしまう、みそ屋。日々の暮らしのなかで、見えない菌や生き物といっしょに暮らしているという意識が自然と芽生えているのかもしれません。
★★★
★きっかけはすっぴん〜シンプルになるきっかけ〜
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五味洋子
山梨県甲府市出身。東京農業大学醸造科学科にて発酵学を学ぶ。卒業後、2009年ライフスタイル提案会社に就職。社員食堂の立ち上げや、新規事業部で商品企画を担当。2013年、味噌屋への帰郷を決意。みそ屋の六代目を務める実兄と発酵兄妹として手前みそ文化や、発酵文化を伝えるため日々奮闘中。
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