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【連載】近年の発酵ブームについて、みそ屋の私が思うこと|発酵とすはだのおいしい関係(12)
2016.03.20
みそ屋, 味噌, 発酵, 発酵とすはだのおいしい関係
ある日は、未就園児とそのお母さんと。ある日は、老人ホームで。手前みそづくり教室では、毎回様々な人と出会います。年齢層も性別もばらばらで、まさに老若男女。特定のターゲットがないというのも、みそのすごいところだと日々感じています。
消えつつある「うちだけの味」
先日の手前みそづくり教室で、こんな会話がありました。
ある方は、幼い頃に近所の人たちと集まって手前みそを仕込んでいて、また別の方もご実家で凍えながら手前みそ仕込みをしていたという思い出話をしてくださいました。作業の内容は鮮明には覚えてはいないようでしたが、みそづくりは人が集うたのしい冬の恒例行事だったとか。


4人1組で作業台を囲っていましたが、このなかの3人の方が手前みそづくりの記憶を話してくださいました。“手前みそ”という言葉もあるように、みその作り方はそれぞれの家庭に独自のルールがあったそうです。これまでみそ仕込みをしていた方々が高齢になり、ほとんどの家庭では、もうみそ仕込みは行っていないと口を揃えていらっしゃいました。しかし、その手前みその味、手づくりの味が忘れられず、みそを自分で仕込もうと、私たちが開いた教室に参加してくださったそうです。
みそづくりはコミュニティ!?
みそ屋の実家に戻ってきてから、年間50回以上みそづくり教室をしています。内容は毎回一緒ですが、集まる人によって教室の雰囲気は異なり、私も毎度楽しませてもらっています。

例えば、初対面同士でも同じ作業をしていくなかで、打ち解け合い仲良く帰っていくグループがあったり、みそづくり経験者の方が初心者の方にこれまでの経験談や仕込みのアドバイスをしている姿を見かけたりします。また、私より人生経験が豊富なグループの方と一緒の時は、私のほうが手前みそ仕込みの後輩なので、ベテランの皆さんからいろいろと教えてもらうこともしばしば。
誰にとっても身近で当たり前の“みそ”だから、自然と会話が生まれ、場が楽しく醸されるのでしょうか。買おうと思えばすぐに手に入るのに、あえて手づくりをしようと集う方々ですから、ものだけでなく場や空間も大事にしたいと思う方が多いのでしょうか。手前みそですが、毎回とても実りの多い時間になるので、みそづくりをする人に悪いひとはいないのでは?とさえ思っています。
ブームではなく、文化として根づく日を目指して
世の中が食の安全安心を見直す傾向にあり、手前みそも少しずつ注目されてきています。これからは、昔の人にとっては当たり前だった手前みそを、一時的なブームではなく、次代にしっかりと伝え、文化として根付かせていくことが大切だと思っています。もちろん家族構成や時代の移ろいもあるので、現代にあったかたちで。

もし世の中の人がみな、手前みそをするようになったとしたらみそ屋は必要なくなります。その時は私たちも潔く、みその原料を販売するこうじ屋さんになってもいいと思っています。こんなことを言ったら、ご先祖様に怒られてしまうかもしれませんが、文化を継承していくことが今のみそ屋の使命だと勝手に思っています。
これからもみそだけでなく、人や文化も醸していく、そんなまちのみそ屋でありたいです。
★★★
★きっかけはすっぴん〜シンプルになるきっかけ〜
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五味洋子
山梨県甲府市出身。東京農業大学醸造科学科にて発酵学を学ぶ。卒業後、2009年ライフスタイル提案会社に就職。社員食堂の立ち上げや、新規事業部で商品企画を担当。2013年、味噌屋への帰郷を決意。みそ屋の六代目を務める実兄と発酵兄妹として手前みそ文化や、発酵文化を伝えるため日々奮闘中。
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