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【連載】私のふるさとは、山が育む美味しいものでいっぱいです|発酵とすはだのおいしい関係(17)
2016.09.12
私の住む山梨県甲府市は360度山に囲まれた盆地。どこへ行くにも峠を越えないといけない山に囲まれた生活をしています。小さいころから、山に登って盆地を見下ろすとなんだか気持ちが落ちついたり、考えごとをするときは、近所の小さい山に当時飼っていた犬と登ったりと、山とは密接に関わった暮らしをしていたような気がします。
家業を継ぐために実家に帰って3年目、ふといつも眺めている山へ登ってみることにしました。
家業を継ぐために実家に帰って3年目、ふといつも眺めている山へ登ってみることにしました。

甲府の北側から街を一望した写真
アウトドアが好きな友人に勧めてもらったのは、長野県と山梨県の県境、北杜市にある日向山という初心者でもハイキング感覚でチャレンジできる標高1660メートルの山です。登山口までは、甲府から車で1時間ほどです。

すてきな登山のルール
登山に挑戦したのは、夏の初め。山の緑が青々とっても綺麗でした。登山には、どんな山にも共通するルールがあるそうです。それは「すれ違う人と、必ず挨拶をすること」。

この日もすれ違った方全員と挨拶を交わしました。ルールだから、というよりは、「頑張って登ってね」「おつかれさま」と同じ山にいる同士として気持ちを交わしているような、そんな気分でした。普段の生活では、知っている人としか挨拶をしないのが、逆に不思議なような……そんな気さえしました。森のなかの清々しい空気と、すれ違う人との挨拶も行き交って、なんだかとっても気持ちいいのです。
背の高い針葉樹のなかを突き進んでいきます。普段からの運動不足のせいか、休憩の回数も徐々に増えてしまいました。そして、お昼の時間も近づいてくると、お腹の虫がぐ~ぐ~と元気に鳴きはじめました。
これが登山の醍醐味
午前中から登り初めて、山頂に到着したのが正午過ぎ。
突然目の前の視界が開けてきました。その景色に、思わず「わ~!」と歓声をあげてしまいました。


山頂付近は、花崗岩が風化したことによってできた白い砂に覆われていて、砂漠のような、はたまた砂浜のような、とっても珍しい光景が広がっていました。そして目の前にそびえるさらに高い山々、遠くに見える街、何もさえぎるものがない目の前の雄大な景色……。重くなっていた足取りも山頂に着いた途端、軽くなります。
そして、山登りの楽しみといえば、お昼ごはん。とはいえ、朝もそんなに時間がなかったので、朝ごはんの残りのおかずとおにぎりを握っただけの簡単なお弁当を持って登りました。
空気がおいしいとごはんもおいしい
いつもと同じおにぎりも、2時間歩いて大自然のなか食べるのは、格別。特別な味付けやおかずがなくても食べる場所がとっても気持ちいいというだけで、いつもの倍おいしく感じられます。

食べるという行為一つでも、仕事の合間にパソコンの液晶を見ながら食べるのと、大自然の中でお腹を減らして食べるのでは、まったく違います。普段の忙しい暮らしだと、ついつい食べるという行為が作業の一つになりがちですが、そうではないということを再認識した気がしました。

今回登った日向山の周りには、名水百選になった渓谷や、田んぼ、蔵元などがあります。雄大な山々や自然に囲まれた場所だからこそ生まれる産物ばかり。わたしの家のみそも、山梨という山の多い地形だからこそ生まれた「甲州みそ」という郷土みそをつくっています。
自分の住む場所も、ときどき俯瞰してみると改めて気づくことばかりです。昔から考え事をするときにぼんやり高いところに登ってしまうのも、山に囲まれた盆地で育ったわたし独自の習性なのかもれません。地元を知って、自分のルーツもちょっぴりわかったようなそんな山登り時間でした。
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五味洋子
山梨県甲府市出身。東京農業大学醸造科学科にて発酵学を学ぶ。卒業後、2009年ライフスタイル提案会社に就職。社員食堂の立ち上げや、新規事業部で商品企画を担当。2013年、味噌屋への帰郷を決意。みそ屋の六代目を務める実兄と発酵兄妹として手前みそ文化や、発酵文化を伝えるため日々奮闘中。
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