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コラム
【連載】まちのみそ屋の女将さんへの道|発酵とすはだのおいしい関係(20)
2017.01.27
みそ, みそ屋, 発酵, 発酵とすはだのおいしい関係
私は、高校を卒業して上京するまで、自分で家の鍵を開けたことは、ほとんどありませんでした。みそ屋の店舗と住居が一緒なので、家に帰ると必ず家族だったり、従業員さんだったり、みそ屋のお客さんだったり。いつも誰かに「おかえり」と迎えられていたからです。
だから、18歳で一人暮らしを始めてから初めてひんやりとした真っ暗な家に帰ることになりました。
当時は窮屈なこともありましたが、今となってはその賑やかな環境こそが自分の基盤であると感じます。私は、母がお嫁に来た時の年齢をとうに超えてしまいましたが、改めてみそ屋の女将になったことを聞いてみました。
結婚して、みそ屋に入り、家庭と仕事の隔たりのない“家業”を初めて味わうこととなったのです。それは“ごちゃごちゃでにぎやかな日々”だったと懐かしい顔で話してくれました。

職場と住居がいっしょなので、生活の延長線上に仕事がある日々。朝の家事をして、階段の下の職場に行って、みそ屋の仕事をこなす。お昼になったら、上に上がって家族のごはんをつくる。
そんな慌ただしい生活を20年近く続けていました。
もちろん父親も職場が一緒なので、両親は朝昼晩三食一緒に食卓を囲みます。家の下にはみそ屋がある、つまり家族以外の誰かがいる暮らし。公私混同甚だしい生活ですが、母はこの怒涛の20年間で、子育てが負担になったことはないというのです。夫婦ふたりだけでなく、みそ屋のみんなと子育てをしていたからね、と笑って言いました。
みそ屋に生まれた私も、小さいころからお店を手伝うことが当たり前。家の庭がみそ屋の駐車場でもあるので、常に誰かが出入りしているのです。誰か来れば「いらっしゃいませ〜」と声をかけ、人見知りしている暇もありませんでした。

3つ上の姉といつも遊ぶのは、庭兼会社の駐車場でした
おしゃべりとお節介好きの母は、事務仕事がたまっていても来客があれば、お客さんのもとへ駆けつけ、話に花を咲かせます。
その姿は昔も今も変わらず、お客さんを見送った後に「あれ? わたし何の仕事をしていたっけ〜」と頭を抱えてしまいます。こんな風にバタバタと仕事をしている姿こそが、私がずっと見てきた、みそ屋の女将なのです。
でも母と一緒に仕事をして、みそ屋にお客さんからたくさんのおすそ分けが届く訳、まちのみそ屋としてご贔屓にしてきたもらった理由が、今なら分かるような気がします。母のような女将になりたいかというと、それは分かりませんし、到底なれる気がしません。でも、母のように家の明かりと温もりを灯し続けられる人になりたいです。
これまで「ただいま」と言ってばかりだったけど、これからは「おかえりなさい」と大切な人たちを暖かく迎えられるように。
だから、18歳で一人暮らしを始めてから初めてひんやりとした真っ暗な家に帰ることになりました。
当時は窮屈なこともありましたが、今となってはその賑やかな環境こそが自分の基盤であると感じます。私は、母がお嫁に来た時の年齢をとうに超えてしまいましたが、改めてみそ屋の女将になったことを聞いてみました。
お嫁に入って始まった“ごちゃごちゃでにぎやかな日々”
4人姉弟の長女で面倒見のいい母。私の祖父、つまり母の父親も会社を経営していたので、結婚して、家業に入ることへの違和感はなかったそう。しかし、祖父の会社はネジ屋さん。店舗があるわけではなく、会社と住居も別だったので、家庭と仕事は切り離した暮らしで、母には祖父の仕事は見えていなかったと言います。結婚して、みそ屋に入り、家庭と仕事の隔たりのない“家業”を初めて味わうこととなったのです。それは“ごちゃごちゃでにぎやかな日々”だったと懐かしい顔で話してくれました。

父と母の結婚式の招待状。みそ屋として生きていく二人の決意が書いてあった
職場と住居がいっしょなので、生活の延長線上に仕事がある日々。朝の家事をして、階段の下の職場に行って、みそ屋の仕事をこなす。お昼になったら、上に上がって家族のごはんをつくる。
そんな慌ただしい生活を20年近く続けていました。
もちろん父親も職場が一緒なので、両親は朝昼晩三食一緒に食卓を囲みます。家の下にはみそ屋がある、つまり家族以外の誰かがいる暮らし。公私混同甚だしい生活ですが、母はこの怒涛の20年間で、子育てが負担になったことはないというのです。夫婦ふたりだけでなく、みそ屋のみんなと子育てをしていたからね、と笑って言いました。
みそ屋に生まれた私も、小さいころからお店を手伝うことが当たり前。家の庭がみそ屋の駐車場でもあるので、常に誰かが出入りしているのです。誰か来れば「いらっしゃいませ〜」と声をかけ、人見知りしている暇もありませんでした。

3つ上の姉といつも遊ぶのは、庭兼会社の駐車場でした
おしゃべりとお節介好きの母は、事務仕事がたまっていても来客があれば、お客さんのもとへ駆けつけ、話に花を咲かせます。
その姿は昔も今も変わらず、お客さんを見送った後に「あれ? わたし何の仕事をしていたっけ〜」と頭を抱えてしまいます。こんな風にバタバタと仕事をしている姿こそが、私がずっと見てきた、みそ屋の女将なのです。
今度は自分が迎える側に
わたしが家業に入って3年が経ちました。自分がみそ屋になるとも、母と一緒に仕事をするとも思っていませんでした。でも母と一緒に仕事をして、みそ屋にお客さんからたくさんのおすそ分けが届く訳、まちのみそ屋としてご贔屓にしてきたもらった理由が、今なら分かるような気がします。母のような女将になりたいかというと、それは分かりませんし、到底なれる気がしません。でも、母のように家の明かりと温もりを灯し続けられる人になりたいです。
これまで「ただいま」と言ってばかりだったけど、これからは「おかえりなさい」と大切な人たちを暖かく迎えられるように。
★★★
★自然由来のものと育む、すこやかな暮らしのヒント
★木の香りで癒され、美のエネルギーを蓄えよう
★わたしらしい「暮らし」ってなんだろう
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五味洋子
山梨県甲府市出身。東京農業大学醸造科学科にて発酵学を学ぶ。卒業後、2009年ライフスタイル提案会社に就職。社員食堂の立ち上げや、新規事業部で商品企画を担当。2013年、味噌屋への帰郷を決意。みそ屋の六代目を務める実兄と発酵兄妹として手前みそ文化や、発酵文化を伝えるため日々奮闘中。
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