
発酵に興味を持った最初のきっかけは、高校生の頃に読んだ『赤ちゃんはスリッパの裏をなめても平気』という本でした。
O-157の流行などの伝染病で、菌という言葉に神経質になっているご時世、この本にもらった衝撃は大きいものでした。私たちの身の回りにいる菌は、つい悪者と捉えられがちですが、じつはそうでないこと、目に見えない菌が人間の生活に貢献していること、特に食生活に密接に関係している発酵菌のはたらきには、目から鱗でした。
新たな菌の一面を垣間見た時から、思いがけず発酵の世界へぐんぐん引き込まれていったのです。

大学時代に酒蔵実習で蔵元に2週間住み込みをしました。
大学で専攻した醸造科学科では、授業で発酵調味料づくりや酒づくりを行い、菌のはたらきを目の当たりにし、そこから発酵のロマンに魅せられていきました。
そして発酵との出会いによって、考え方や自分の価値観にも、大きな変化があったのです。
ありのままを受け止める

今、私は手前みそ(自家製のみそづくり)の啓蒙活動に力を入れています。手前みそを通して、発酵を待つ間の季節の移ろいや、見えない菌のはたらきに少しでも気づきがあればと思っています。自分でつくることで愛着が沸きますが、時間の経過とともに菌が変化していく様子は、まさにロマンなのです。
仕事柄、他の蔵元で働く醸造家さんとお会いする機会が多くあります。醸造家さんは、自然でおおらかな方が多い印象です。きっとそれは目に見えない菌といっしょに仕事をしているからかもしれません。何が起きても、どっしりと自然現象として受け止めている。発酵と関わるひとの生き方なのかもしれません。
豊かなシンプルライフ

身近で、でも目には見えない発酵の世界。そんな世界が広がる「発酵のある暮らし」って、どんなものだろうと、私なりに考えてみました。
それはきっと、見た目はいつもと同じ当たり前の食卓なのですが、目の前にある調味料がどうやってできているのか、どんな発酵菌がはたらいて醸されたものなのか……そんなことを考えるだけで、目の前の食事がなんだかとっても豊かなものに見えてきませんか?
私は、ふだんから作り手さんの顔が分かるものを口にするようにしています。そうすることで、いつもの何倍も味わっておいしく食べることができるような気がするからです。
思考や視点をちょっと考えるだけで豊かな気持ちになれるって素敵ですよね。そんな食卓が増えるように、これからも発酵のお話を伝えていきたいと思っています。
思考や視点をちょっと考えるだけで豊かな気持ちになれるって素敵ですよね。そんな食卓が増えるように、これからも発酵のお話を伝えていきたいと思っています。
-
五味洋子
山梨県甲府市出身。東京農業大学醸造科学科にて発酵学を学ぶ。卒業後、2009年ライフスタイル提案会社に就職。社員食堂の立ち上げや、新規事業部で商品企画を担当。2013年、味噌屋への帰郷を決意。みそ屋の六代目を務める実兄と発酵兄妹として手前みそ文化や、発酵文化を伝えるため日々奮闘中。
五味洋子の記事一覧
-
-
ピックアップ記事
【連載】まちのみそ屋の女将さんへの道|発酵とすはだのおいしい関係(20)
2017.01.27
-
-
コラム
【連載】美味しいみそ汁に欠かせない相方(19)|発酵とすはだのおいしい関係
2016.12.23
-
-
コラム
【連載】目指せ!頼れるまちのみそ屋さん(18)|発酵とすはだのおいしい関係
2016.12. 5
-
-
コラム
【連載】私のふるさとは、山が育む美味しいものでいっぱいです|発酵とすはだのおいしい関係(17)
2016.09.12
-
-
コラム
【連載】すべてにストーリーがある。鎌倉の「hotel aiaoi」での豊かな時間|発酵とすはだのおいしい関係(16)
2016.08.12