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【連載】茶色いお砂糖の不思議と母の愛|発酵とすはだのおいしい関係(13)
2016.05. 6
子育て, 母, 発酵とすはだのおいしい関係, 砂糖
物心ついたころから、台所仕事に興味がありました。隣に住む祖母の家では糠床をかき混ぜる手伝いをしたり、料理する姿を横でじーっと眺めたり、揚げたての唐揚げを誰よりも先に味見をしたり。
ある日、祖母の家と自宅の台所に並ぶ調味料が違うことに気が付きました。
白いお砂糖に憧れて
家には、白いお砂糖がありませんでした。あるのは茶色いお砂糖だけ。よく見ていた料理番組でも、砂糖というと、白いものが出てきましたが、うちにはありませんでした。
どんな砂糖も、はじめは白いけれども、時間が経つと茶色になるのでは、と考え「うちのは劣化したものなんだ」と思っていました。けれども幼心に母には聞けなかった私は、まず祖母に相談してみることにしました。
「おばあちゃん、洋子のおうちのお砂糖ね、お母さんが腐らせちゃったみたい。茶色いの」
私の言葉に、祖母は驚いていました。そもそも砂糖は腐らないですからね。祖母は、茶色い砂糖は腐ったものではなく、からだによい成分をたくさん含んでいるから白より色が濃いのだと教えてくれました。
砂糖を腐らせてしまううっかりものだと思っていた私の母は、実は家族のために料理の基本となる調味料を大事に選んでくれていたのです。
私が憧れていた白いお砂糖は、ショ糖分98%の「上白糖」でした。そしてうちにあった茶色い砂糖は、ミネラル分を多く含む「粗製糖」だったのです。当時から実家にあった調味料は、すべて余計なものは入っていませんでした。その頃、母のこだわりには気づきませんでしたが、大人になってから、こだわりの調味料を揃えるスーパーに行ったときに、実家の冷蔵庫とほぼ同じものが並んでいるのを見つけ、当時の母の徹底ぶりに驚きました。
母が食と向き合うきっかけ
食の安全や安心が問われる現在では、自分の食に向き合う機会は多々ありますが、私が生まれた30年前は、便利で安い食品が世に出回り、大量生産大量消費の全盛期でした。そんな時、私は生後すぐに、免疫不全でアトピー性皮膚炎になってしまいました。
人よりも肌が弱く、いつもからだには湿疹があり、それを掻きむしらないよう、手足に包帯を巻いたり、手袋をして寝ることも。そんなこともあって、母は食や肌に触れるものに対して深く考えるようになったそうです。
細かいことを気にすると続かないので、無理のない、できる範囲で。そういう想いのもと、家族の調味料を選んでくれていたのです。
気づかなかった母の想い
母は、強いこだわりを持ってストイックに!というよりは、簡単に取り入れられて無理なく生活になじむようにしていたため、私は気づかなかったのだと思います。
小さい頃は、ちょっと嫌だった茶色い砂糖も、気づいたら私の生活の一部となり、一人暮らしをしていたときも使っていました。調味料の選び方や母の食へのこだわりを直接聞いたことはありませんが、当たりまえに口にして実践していくうちに、私のからだにそっと染み込んでいったのだと思います。母や祖母が台所に立つ姿や、日々の食卓こそが私にとっての食育だったのでしょう。
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五味洋子
山梨県甲府市出身。東京農業大学醸造科学科にて発酵学を学ぶ。卒業後、2009年ライフスタイル提案会社に就職。社員食堂の立ち上げや、新規事業部で商品企画を担当。2013年、味噌屋への帰郷を決意。みそ屋の六代目を務める実兄と発酵兄妹として手前みそ文化や、発酵文化を伝えるため日々奮闘中。
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