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時代小説家で江戸料理・文化研究家の車浮代さんが愛す、手仕事の美しい和小物3選

2016.05.20

うつわ, 印傳, 手仕事, 日本文化, , 職人, 食器

時代小説家、江戸料理・文化研究家など、さまざまな肩書きを持つ車浮代(くるま うきよ)さんは、着物姿が粋な大和女性。独特の存在感と快活なトークはまさに江戸っ子! といった雰囲気ですが、実は30代まで大阪を出たことがなかったという、筋金入りの浪速っ子だったそう。
 
車浮代さん
 
そんな浮代さんが上京したきっかけは、浮世絵の摺師(すりし)の手仕事に感動し、江戸文化に運命を感じたからだとか。浮世絵に携わりたい一心で江戸文化を学び、今では浮世絵界最高峰の技術の結集「春画」を説く第一人者として活躍しています。春画とは、性風俗を描いた絵のことですが、浮代さんの書籍『春画入門』(文春新書)やセミナーは、大人の女性に大人気です。
 
今回は、そんな浮代さんが愛用している“こだわりの日用品”を見せていただきました。

(1) もとは小学校の給食用!? 軽い、割れない、水に強い「漆のお椀」

「かなり使い込んでいて」と最初に見せていただいたのは、美しい朱塗りのお椀。素人目には使用感などまったく感じませんが、このお椀、実は16年ものとのこと。江戸の食文化の中でも味噌汁の栄養に注目している浮代さんは、ご自身も毎日2杯の味噌汁を飲むそうですが、その毎日の食事にこのお椀を使い続けてきたと言うのです。
 
漆のうつわ
 
一般的に漆の器というと、軽くて美しい工芸品で、すぐに剥げたり、ひび割れてしまうイメージ。よほど大事に使ってきたのだろうと尋ねてみると、「そんなことありません。どちらかというと、他の漆の器よりいい加減な使い方をしてきました(笑)。洗う時間がなくて2、3時間水につけっぱなしにしたり、濡れたまま乾かしたり……」と浮代さん。その丈夫さの秘密を聞いてみました。
 
このお椀はもともと、漆塗りのメッカである木曽地方で、子どもたちにも伝統に触れてほしいという思いから、木曽楢川小学校の給食用の食器として作られたものだそう。小学校の給食で漆の器を使うなんて贅沢……! とどよめいた取材陣に対し、浮代さんも「うらやましいですよね。すごくいい情操教育になると思うんです」と笑顔を浮かべます。
 
 
車さんとうつわ
 
やや角張った、モダンなこの形は、元・職場の先輩のデザインで「和洋中、どの料理にも合い、たくさん重ねても安定する形」を意識したのだとか。給食器として開発された当初は、食洗機のパワーに負けて、テストしてもすぐに剥げたり欠けたりして改良に時間がかかったそうですが、漆を厚く塗り重ねることで、強い漆の器を作り上げたのです。
 
「漆の器の魅力は、なんと言っても熱が外に伝わりにくく、磁器などと違って食事が冷めにくいこと。唇に当てた時もぬくもりを感じられるのがいいですね」と、浮代さんは愛おしそうにお椀を見つめます。残念なことに、この器は一般販売されていませんが、漆器のすばらしさを改めて感じるひと品でした。

(2) 毎日使うからこだわりたい。お気に入りの「箸と箸置き」で食卓をさりげなく彩る

「先の細い箸が好きなんです」と浮代さんが次に見せてくれたのは、樺細工(かばざいく)の漆の箸と竹の箸、個性的な形の箸置き。細かいものも上手につかめる先の細い箸は、置いてあるだけで芸術品を思わせる、日本ならではの技術の結晶です。
 
箸置き
 
特にお気に入りだという竹箸は、温泉に行った時、たまたま寄ったお店で一目惚れして買ったものだそう。洗練された絵付けのような竹木目を指して、「一本いっぽん違う、この木目が好きなんです」との言葉からも、もの選びへのこだわりが垣間見えます。
 
そんな箸とセットで見せていただいた箸置きは、人からのいただきものだとか。他にはないデザインと塗りのうつくしさがお気に入りで、長い間ずっと使い続けているそうです。
 
車さん
 
箸を使う講座があるほど、食事のマナーを大切にする国・日本。海外からは「厳しすぎる」との意見も多いようですが、こうした日本独自の美意識が「武道」「茶道」「華道」「書道」などの伝統を作り出してきました。食卓から箸が消えつつあると言われる現代ですが、うつくしい所作を生み出す箸の文化を、今を生きる私たちがしっかりと未来へつないでいきたいものですね。

(3) 粋な大人の縁結び「印傳の名刺入れ」

鹿の革に漆を塗って仕上げる甲州の伝統工芸品・印傳(いんでん)。幸せを呼ぶといわれる「青海波」(せいがいは)があしらわれた名刺入れは、浮代さんにとってまさに人と人の縁を結ぶ、お守りのようなアイテムだと言います。
 
印傳
 
以前は、古代織物を模した、名物裂の名刺入れを使っていましたが、ぼろぼろになるのが早く1年に一回買い換える必要がありました。そこで、そろそろ買い換えずに使える名刺入れを持とうと考え、印傳にシフトしたそう。
 
浮代さんが使っている印傳の名刺入れは使い始めて約2年。「まだまだ若い。20年は使い続けられますよ」という丈夫さは、鹿革ならではのしなやかさがあってこそだと浮代さんは言います。さらに、印傳に興味を持ったきっかけを伺ってみると、そこにはやはり浮代さんらしい、人との結びつきがありました。
 
印傳
 
「たくさんある革製品の中で印傳を選んだのは、これまでに出会った“こだわりのある人”ほど印傳を持っていたから。実際にこれを持ってから、『印傳持ってるんだ。いいよね』とよく言われるようになり、すてきな方たちとのお話が弾むようになりました」
 
和の伝統を大切にしたい。そんなこだわり目線から選ばれた、使えば使うほど味の出る印傳の名刺入れ。人の顔に人生が刻まれていくように、この名刺入れにも、長い年月をかけて浮代さんの個性が映し出されていくのでしょう。この印傳がくたくたになったころ、もう一度見せていただきたい。そんな風に感じる逸品でした。

持つ人の個性を魅せる手仕事の小物

最後に、浮代さんの物選びのポイントと聞いてみるとこんな答えが。
 
「身のまわりの物を買う時は、和を意識します。私が持っていることで、皆さんにも『あ、あれすてきだな』と思ってもらえたらうれしいです」
 
うつわとお箸
 
使い手の人柄、こだわりが映し出されているからこそ、モノはさらに魅力的に輝くもの。浮代さんのお気に入りの物たちからは、気っ風(きっぷ)と人情を大切にした江戸の美意識「粋」が確かに感じられました。あなたならどんな“自分色”を大切にして、お気に入りを選びますか?

お話をうかがった人

車浮代
車 浮代(くるま うきよ)
時代小説家/江戸料理・文化研究家。大阪出身。セイコーエプソン㈱でグラフィックデザイナーとして勤務後、映画監督・新藤兼人氏に師事し、シナリオを学ぶ。TBS「所さんのニッポンの出番」を始め、TV・ラジオでも活躍中。著書に「えんま寄席 江戸落語外伝」(実業之日本社)、「北斎春画かたり」(小学館)、「蔦重の教え」(飛鳥新社)ほか多数。公式サイトはこちら
★★★
 
★薬膳と暮らす台湾の日常
★きっかけはすっぴん〜シンプルになるきっかけ〜
★すはだで暮らすひと
牧野絵美

牧野絵美

音楽、芸術、書道と幼いころから“創る物”に没頭してきたインドア派。和の心をこよなく愛し、海外在住中も着物と書道具を肌身離さず持ち歩いた。 就職とともに仕事の楽しさに目覚めるも、サービス業の鬼になってやろうと上ばかり見て躓くこと数えきれず。縁あって小説を出版し、創ること、生み出すことに満たされる自分を再確認した。美しさと健康の原点は、生きたい自分を生きることと信じ、鋭意執筆中。

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